飲食店の女性従業員への暴行罪で強制起訴され、1審徳島地裁で強制起訴制度初の有罪判決を受けた徳島県石井町長、河野(こうの)俊明被告(69)の控訴審判決が12日、高松高裁(佐野哲生裁判長)で言い渡される。控訴審では、1審公判で暴行を目撃したとした男性客が証言を撤回し、有罪判決の有力な根拠が覆った。平成21年5月に創設された強制起訴制度に基づき起訴された8事件のうち、有罪判決はこの1件しかなく、制度論への影響も含め、高裁の判断が注目される。
24年3月に強制起訴された河野被告は、一貫して「でっち上げだ」と無罪を主張。1審判決後に石井町議会で提出された辞職勧告決議案は否決され、現在も町長を続けている。
「嘘をついた」「(捜査段階で)見たと言ってしまい、引き下がれなくなった」。昨年9月の控訴審第2回公判で、男性客は1審段階での証言を覆した。1審判決は有罪の判決理由で「被害者や客の目撃証言は信用できる」としていた。
控訴審の最終弁論で、弁護側は「男性客が証言を翻し、暴行の事実を認定する前提が崩れた」として改めて無罪を主張。一方、検察官役の指定弁護士は「暴行があったか分からない、と供述しているに過ぎない。有罪認定に影響はない」とし、控訴棄却を求めた。控訴審判決では、男性客の証言の変遷をどう判断するかが最大の焦点となる。
徳島検察審査会は2回目に「起訴相当」と議決した際、「司法の場で真実を明らかにすべきだ」と指摘した。控訴審で司法判断が覆れば、強制起訴制度の見直し論が改めて高まる可能性もある。