【書評】『建設ドキュメント1988- イサム・ノグチとモエレ沼公園』 | 毎日のニュース

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 ■集大成を残す17年の苦闘

 1970年代に始まる日本のパブリックアートは「仏作って魂入れず」的に数を増やすことに終始し、世界の動きとは相反していた。しかし、モエレ沼公園(札幌市)は画期的で、パブリックアートに重要な意味を投げかけた。

 イサム・ノグチ(1904~88年)のほとんどの作品を度々米国で見てきた私にとっても、その作品やプロジェクトの多くが彫刻の概念から遠く、ランドスケープデザインとも異質なスーパースケールであった。その上、モエレ沼公園は、彼がマスタープランの段階で亡くなり、まるで雲をつかむような状況でプロジェクトはスタートしている。

 しかし、本書の著者や市の造園課の担当者らはもとより、登場する人物たちのテンションの高さは、芸術家の情熱が乗り移ったようだ。それぞれの役割を何倍にもスケールアップしたパワーを発揮。「不思議な縁」で結ばれて出発したイサム・ノグチの作品の集大成を札幌に残そうとした苦闘の17年の物語である。自然と人間、都市と人間の関係を表現してきたイサム・ノグチという思想家としての異次元の人物に戸惑いながらも、関係者が彼の創造の根源であるフィーリングに尊敬を持って近づこうとし、修練を積み、自分に足りない世界観を血肉にしたいと努力を続けた記録でもある。