監督のアリ=アッバシの2018年の作品「ボーダー 2つの世界」が大変面白かったので、同監督の「聖地には蜘蛛が巣を張る」も楽しみに待っていました。
イランにある聖地マシュハドで実際に起こった連続殺人事件を題材にしています。16人の娼婦が殺されます。犯人はいわゆる確信犯(自分の信念に基づく犯行)です。イランはご存じのとおりイスラム教の宗教国家です。
イスラム世界では女性の地位や権利が男性よりも低い。主人公であるジャーナリストの女性は予約済のホテルを「未婚女性」を理由にキャンセルされそうになります。ジャーナリストの身分証でようやく宿泊を許されます。
さて連続殺人犯は家庭では3人の子を持つ父親です。妻とも仲がいいです。ただし娼婦は抹殺されるべきという非常にゆがんだ信念を持ち、その手段として自ら手を汚し殺人を行っています。映画では娼婦の暗喩として蜘蛛が使われています。
警察は何をしているのか?あまり積極的に動こうとはしないのです。娼婦に対する人権意識が低いからでしょうか。そもそも娼婦になりたくてなっている人はいません。女性の地位が低い社会が透けて見えます。
警察が動かないので主人公が動きます。オトリ捜査をするのです。その活動によって犯人は逮捕され裁判にかかりますが、驚くべきことに犯人を英雄扱いで支持し無罪を主張する民衆が多くいます。犯人の子ども(長男)はそんな民衆の励まし?に感化され道を誤るかもしれません。
私は異文化を背景にした異国の映画を好みます。自分の依って立つ価値観や思想が相対化される時の「ゆらぎ」が好きです。
2023年通算73本目