手形サイトの長さは利益に直結する~下請法の改正②(手形サイトの短縮)~ | 福岡の弁護士による、身近な法律、その他時事ネタについてのブログ。

福岡の弁護士による、身近な法律、その他時事ネタについてのブログ。

福岡の 弁護士 朝雲 秀 のブログです。身近な法律、その他、自分の興味のおもむいたこと(金融、経済など)について、書いています。

 下請法改正を目的とする経産省の「未来志向型の取引慣行に向けて」(平成28年9月15日)の改正プランの中に、手形サイト(手形の振り出し~支払日=満期までの期間)の短縮化があります。

 下請法(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)は2条の2において、支払期日を定めなければならず、その期日は60日以内とされています。つまり、末締め翌月末日払いまではいいということです(例えば、10月1日に納品した場合11月末日までに支払ういうことなので、ぎりぎり60日は超えない)。一方、末締め翌々月払いは不可(10月1日に納品した場合支払日が12月に入ると60日を超えるので)ということです。

 ただし、この支払は、現金でなくてもよく、例えば手形でもよいとされています。

 手形は、振り出すときに支払日を決めて手形に記載しますが、この支払日が来て初めて、取り立てに出して、現金が入ってきます。振出日から例えば90日後を支払日と決めると、手形をもらっても90日待たないと、取り立てに出して現金をもらう、ということができません。下請法で定められた60日以内に手形で支払いを受けても、取り立てに出して現金をもらうのに、さらに何十日も待たないといけない、ということになります。

 しかし、手形で支払いを受けた下請け企業は、すぐに手形を現金化する方法があります。手形を受け取って、その手形を銀行等で割引(手形を銀行に売ること)すれば、現金化できます。

 しかし、割引に出しても、手形に書いてある金額が丸々もらえるわけではありません。割引料(手形の支払日=満期日までの利息)を差し引かれるので、もらえる現金の金額が下がります。割引率は、サイトが長ければ長いほど、高くなります。つまり、手形のサイトの長さは、もらえる現金の金額に影響する話です。また、割引に出してから、手形の支払い日=満期日までに、手形を振り出した企業が倒産してしまうと、手形を割り引きに出した下請企業は、割引により受け取った現金を銀行に返さなくてはいけません。このようなことが生じる危険性は、手形のサイトが長ければ長いほど、高くなります。

 従って、支払期日を60日以内に定めただけでは、下請業者の保護としては足らないことになります。

 手形のサイトの規制としては、法律でなく通達で定められていますが、この通達は「下請代金の支払手形のサイト短縮について」という公正取引員会と中小企業庁が出した、昭和41年3月11日付のもので、原則として、繊維工業以外が120日以内、繊維工業については90日以内となっています。今回の改正のうち手形のサイト短縮の件は、この通達の120日を短縮することを意味しています。

 昭和41年以来の改正なので、マスコミが報道している通り約50年ぶりの改正となります。

 

経済産業省のページ「未来志向型の取引慣行に向けて」

 

(追記)

 下請法4条1項3号は、下請代金の減額を禁止事項として挙げ、同法の運用基準において、禁止事項を具体的に定めていますが、「支払手段としてあらかじめ『手形支払』と定めているのを一時的に現金で支払う場合において、手形払の場合の下請代金の額から短期の自社調達金利相当額を超える額を差し引くこと。」も運用基準で禁止されています。逆に言えば、手形で払うと定めているケースで、例外的に現金払いするとき、自社の短期資金調達金利は引いていいことになっています。結局、手形払いと定めると、実質上下請代金の減額が一定程度は(法律に反しなくても)できるということになります。この観点からも、手形のサイトの上限は、運用等で短く制限しないと、下請代金の減額が許されてしまう結果になります。