こちらはBL(潤翔)の妄想小説になります。
苦手な方は御遠慮ください。
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七夕の話.⑤
あの日から三年。
俺たちは年に一度の逢瀬を続けていた。
今隣で眠る愛しい人は、明日になれば去っていく。
次に逢えるのは、きっと、また。
半分開いたままの寝室のドアの向こうから、小さな音が聞こえた。
明かりを消したリビングの窓辺で、三年ぶりに吊るした風鈴とそこにさがる短冊があの日のように揺れている。
違うのは、その短冊には何も書かれていないということ。
もう、何も書かないほうがいい。
最早それが彼にとっての枷になってしまう気がしていた。
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実際に身体の関係を持ったのは三年前のあの七夕の翌年、今から二年前のことだった。
最初のあの日、抱きたいと伝えたものの男同士のそれに対する知識もほとんどない俺と翔くんでは、互いに触れ合うことが限界だった。
それでも身体は満たされ、彼が応えてくれたというその事実がとにかく嬉しかった。
何かが変わるかもしれない。
最初の数日間はそんな期待すら抱いていた。
だけどあの日以来まるで何もなかったかのように振舞う彼に、俺からも何か言える訳もなく、そんな期待は傲慢だったとすぐに思い知った。
何より、あの夜今夜限りだと言ったのは紛れもなく自分自身だ。
一年越しの七月七日が近づく頃、仕事の休憩所として用意された部屋でふと翔くんと二人きりになる瞬間があった。
「今年も書いてんの?」
それまで静かに資料に目を通していた翔くんが不意に口を開いた。
彼の言葉が何を差しているのかはすぐにわかった。
部屋の入口に飾られた笹の葉と、スタッフや関係者が書いたらしい短冊。
それを見た時、いや、実際にはこの一年ずっとあの日のことばかり考えていた。
「……書いたよ」
思わず溢れそうな言葉を抑えて返事をすれば、そこで初めて顔を上げた翔くんが俺を見て、マジで?と笑った。
「今年は何て書いたんだよ」
茶化すような笑顔を向けて、だけどきっと俺の答えなんてわかってる。
「同じだよ、去年と」
言った途端にふーん、と頷く。
ほら、やっぱり。
少しの沈黙の後、ぽつりと翔くんが言った。
「……去年、さ。他にないかって俺が聞いた時、お前が言ったこと覚えてる?」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
忘れるわけがない。
「……忘れた」
「嘘つけ。そんなはずねえだろ」
重たく思われたくなくてついた嘘はあっけなく打ち破られた。
そんなふうに触れてくるなら、なかったことにしなくていいの?
「あれさ、叶えられなかったなって。だから今年さ、リベンジさせてよ」
「リベンジ……?」
その意味を、その姿を瞬間的に思い浮かべてしまった。
きっと分かり易く狼狽えていたと思う。
いや?と聞かれた声にかろうじて首を横に振る。
その直後スタッフが翔くんの名前を呼んだ。
「話せてよかった。じゃ、そういうことで」
横を通る瞬間手の甲で軽く俺の肩を叩いて、翔くんが部屋を出て行った。
そういうこと……って、どういうことだよ。
面と向かってこんな打診をしてくる神経も、あまりに明け透けなその態度にも。色気もなにもないはずなのに。
翔くんと、また逢える。
そう思うだけで、苦しいほどに胸が高鳴った。
そしてこの年の七夕、俺は初めて翔くんを抱いた。
「じゃあ……またな」
翌朝、幾分力なく見える笑顔で微笑む彼に本音を隠して手を振った。
離れたくない、一緒に居たいという声が喉まで出かかっていた。
だけど、彼のそんな顔をみたらやっぱりこれ以上は贅沢だと思った。
きっと、無理をさせている。
「ふふ、また、一年後?」
わざと明るく聞いたが、彼はそれには答えなかった。
結局、怖くて踏み込めなかった。
この関係すら壊れてしまうかもしれないことが。
そしてまた、一年が過ぎた。
三度目──去年の七夕、翔くんからの連絡はこなかった。