ずっと前に読んだ香山リカさんの『親子という病』に、
佐野洋子さんの『シズコさん』（新潮社）と言う本が最近の中で、とても衝撃的なものだった、
とあり興味を持った。
その時、新聞の書評にも載っていて、母子の複雑な愛憎を描いてある、
との事で、いよいよ関心が増した。

佐野洋子さんと言えば、絵本『１００万回生きたねこ』で有名な方。

子供から大人まで読み継がれるロングセラー。
子供にはちょっと難しいんじゃないかなあ、と初めて読んだ時に感じた。
絵本の中に一貫するニヒリズム。
何度も何度も命が絶えて、何度も何度も生まれ変わる。
それでも、どの飼い主にも愛情を残すのでもなく、執着も見せず、
何度も何度も生まれ変わる。
昔に読んだ、手塚治虫の『火の鳥』の八百比丘尼の悲しさと重なった。
日本の古くから伝わる人魚伝説で、禁断の人魚の肉を食べた者は、永遠の命を授かる。
永遠の命を授かった主人公は、いつまでも老いることなく、永遠に美しい。
しかし、愛したものは、やがて老いて死に行く。
永遠に一人なのだ。永遠の孤独。
『１００万回生きたねこ』にも通ずる孤独感。
本書では、最後は愛する猫に出会い、その猫が亡くなった時に、
初めて泣く主人公の猫。
そして、猫は本当に命が絶えて、生まれ変わる事も無かった。
これは何なのだろう・・・。

それが、この『シズコさん』を読んで解明した気がするのだ。
読んだ当時は、「そうそうそう、わかるっ！」と言う感じだった。
すぐ感想を書けば良かったな。
『シズコさん』は佐野さんの、お母さんとの長～い軋轢の歴史である。
読者からの反響として、「私も同じです」と言う声がたくさん寄せられる。
佐野さんは、母親に対する思いが、他の姉妹に比べてとても強いものがある。
長女で美大にも行かれた方なせいか、とても感性が鋭い。
元々、母と娘は複雑な関係に陥る。
しかし、佐野さんとお母さんの関係は一層激しい。
お母さんは、立派な妻であり母親でありながら、とても体裁屋。
戦争も途中絡むので、複雑でエキセントリックな間柄になる。
お母さんは佐野さんに対して愛情を示さないどころか、
激しい暴力を加えることもあった。
そのせいか、佐野さんは長い事お母さんを憎み、強い女性になってゆく。
滅多に泣かない。
長い反抗期と自負されていた。
状況は、少しずつ変わっていく。
佐野さんは何度か結婚をされ、子供を産み、お母さんは嫁と折り合いが悪くなる。
少しずつ、気丈だった母親の認知症が進んでいく。
佐野さんは、それでも母親に対して愛情が湧かない。
やがて母親を施設に住まわせるのだが、段々と胸が痛み出す。
自分は母親を捨てたのだと言う思いに駆られだす。
段々と母親の認知症が進んでいく中、母親も和らいでいき、
佐野さん自身も変わって行く。
ある日、施設でお母さんと添い寝する時、涙が溢れてきて、
初めてお母さんに「ごめんなさい、ありがとう」が言えるのである。
この場面は、とても感動的である。
感動のあまり、佐野さんは河合隼雄さんに手紙を書いた。
この時の河合さんの返事が良かった。
「世の中はそういう風に自然に配置されている」というもの。
私はいつも、こういう河合さんの考えに、とても救われる。

この本は、母と娘の関係も去ることながら、
全ての悩み苦しむ関係、心、などに通ずるように思っている。
状況は変わる。
それは、カウンセラーも運命も、あずかり知らないところ。

佐野さんは、他に『ふつうがえらい』や『神も仏もありませぬ』など、
たくさんのエッセイを書かれているが、どれもスパッと気持ちがいい。
私の母と同じ世代のはずだが、カッコよい。
また、この方、詩人の谷川俊太郎さんと結婚されていた事もある。

佐野洋子さん、
素敵で、カッコよくて、大好きな方である。