現在、東京都美術館で開催中の『デ・キリコ展』を観てきました。本展は形而上絵画で有名なデ・キリコの日本では約10年ぶりの大規模な回顧展だそうです。

 本展、実は入り口から仕掛けがあります。壁が微妙に遠近感を失わせる建付けになっていたり、キリコ風の窓が各所に空いていて、向こう側の景色が見えるのです。鑑賞者はさながらキリコの絵の中に迷い込んだような感じになります。なかなかに心憎い演出です。



 キリコが描いた形而上絵画ですが、形而上といっても難しそうですよね。本展のサブタイトルにもあるように英語ではmetaphysical paintingsです。metaは「超」、physicalは「物体」といった意味ですから、物体を超えた絵画ということになります。日本語の形而上は易経から来ているそうで、ひらたくいえば形の上のもの、という意味です。つまりどちらも「概念」を表しているわけですね。キリコは自らの頭の中にある概念を純粋に作品にしようとしたのです。

 その前提に立つとキリコの絵は白昼夢のような光景を描きながらも全て綿密に計算づくで構成し、緻密に組み立てられた絵画であることがわかります。一点透視法ではなく遠近感をずらしながら描いても、不思議と説得力があるのはその構成の力でしょう。

 私的に面白かったのはキリコお得意のマネキンのモチーフが晩年になるとどんどん人間ぽくなることでした。マネキンなのに柔らかな肌色になり血が通ったようになるのです。それによって絵は白昼夢から御伽噺の挿絵のように変化するのでした。

東京都美術館
『デ・キリコ展』は8月29日まで開催中です。
なお7月9日から16日までは東京都美術館は休館となりますのでご注意ください。
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