助けられない人たち | INDIGO DREAMING

助けられない人たち

たまにですが、こちらに在住している日本人の個人の方から問い合わせの電話を受ける事がございます。

この手の電話は声を聞いただけですぐにピンと来ます。
ものすご~く切羽詰まったような不幸エネルギーが受話器を通してひしひしと伝わってくるのでございます。
はじめっからもう心細くて泣きそうな声だったりして・・・
後ろでぎゃーぎゃー子供がわめいていたりして・・・

こういう場合は何も聞かなくてもだいたい事情は察せます。
きっと安易な国際結婚のなれの果て、飲んだくれか仕事しないかその両方かの外人夫に暴力をふるわれ、子供までいるのに夫婦間の意思疎通ができず、離婚手続きするにも家庭内暴力の差し止め命令を求めるにも英語が出来なくて闇の中、日本語でとにかく相談出来る人が欲しい・・・・
といったところでしょうか。

その他にも交通事故に会ったとか、交通違反で捕まったとか、遺産相続でもめたとか、とにかくワラにもすがりたい気持ちの人がこの法律事務所には日本人スタッフがいるらしいという情報を元に電話をかけてきます。

弊事務所は企業法務専門の渉外法律事務所でございまして、個人の方はもちろんのこと、信用調査次第では中小企業の依頼でさえ受けつけません。
家族法や移民法は対象外、法律は法律でもまったく畑違いなのでございます。

医療の世界でいえば、専門医ばかり揃った総合病院みたいなもんで、ここは最新設備を備えた難易度の高い移植手術専門なので子供の熱や花粉症の方のお世話は出来ません、近くの診療所に行って下さいというようなものでしょうか。

困った事には診療所に該当するようなもっと安い(けど所詮一般人には高い)小規模弁護士事務所をご紹介出来るツテがないことです。
ただでさえお金のないことが見え見えの個人相手に手間と時間ばかりくわれてしまう(相対的に)儲からない商売です。
海外でそんなところに働いている奇特な日本人弁護士がいるわけもなく、日本語サービスを提供しているところだってそうそうありません。
こちらのロー・スクールを出て現地の法律事務所で研鑽を積まれている日本人弁護士の方もいらっしゃいますが、そんな方々はバリバリのエリート志向ですから100%企業法務畑です。

お金のあるところに弁護士も集まり、本当に困っている人たち、必要とされるところには何もない・・・
不公平ですがこれが受け入れなければならない現実でございます。

仕様がないのでこちらの無料法律相談の電話番号を教えてお茶を濁すしか手の施しようがないのですが、英語が出来ないからわざわざ日本人のいる法律事務所を探し出してすがるような方々にとっては意味がないのは目に見えています。

あとは
「領事館さんでどちらか知ってらっしゃるかも・・・」
と振ってみたり・・・

そうすると
「領事館さんからこちらでどこか知ってらっしゃるかもって言われたんです」
という答えが返って来たり・・・(先に振られてしまった・・・)

領事館さんだってここが企業法務専門だって知ってるはずなんですけどね・・・。
むげにすることもできず、こっちに振るんでしょうね。

まあ、私は寸暇を惜しむ弁護士の身分ではございませんので、親身になって聞く振りだけはできるんですが・・・。

「ごめんなさいね。何のお役にも立てなくて・・・」

「いえ、久しぶりに日本語で話ができて少し落ち着きました。ありがとうございました。」

と言って電話を切ってくれた時は少しだけ救われた気分になりますが・・・。

どうなんでしょうね、これ。