更級日記考―女性たちの、想像の部屋 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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千葉県市原市にある市原湖畔美術館で、
現在開催されているのは、“更級日記考―女性たちの、想像の部屋” という展覧会。




こちらは、古典の教科書でお馴染みの 『更級日記』 にちなんだ展覧会で、
現代美術家や文筆家、漫画家など、多彩な12人 (組) の女性アーティストが参加しています。
その中には、日本美術界のトップランナー鴻池朋子さんや、




一卵性双生児のアートユニット髙田安規子・政子のお二人、




2018年のVOCA賞に輝いた注目のアーティスト碓井ゆいさんといった、




現代アート展でひっぱりだこの面々も。
「更級日記考」 という堅めの字面からは想像できないくらい豪華なキャスティングでした。

ところで、何と言っても気になるのは、

“なぜ、『更級日記』??”

というところではないでしょうか。
『源氏物語』 や 『枕草子』、『伊勢物語』 など、
もっとメジャーな古典文学が、たくさんあるような。
実は 『更級日記』 の冒頭は、こんな一文から始まっているそうです。

「東路の道のはてよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人、」

イマイチよくわからないので、現代語訳してみます。

「東海道の終着点よりも、さらに奥のほうで生まれた私なんて・・・」

そう。作者の菅原孝標女が生まれた場所こそが、上総国。
今の市原市です。
もしかしたら、市原湖畔美術館のあるエリアあたりで、
菅原孝標女は生まれ育ち、日記を書いていたのかもしれません。
ちなみに、冒頭の一節に続く・・・

「いかばかりかはあやしかりけむを」

を現代語訳すると、こんな感じになります↓

「どんなに田舎くさいことでしょうか」

何もそこまで自虐しなくても!
関東が田舎であるとディスる。
その元祖は、『翔んで埼玉』 ではなく、『更級日記』 だったのですね。


さてさて、そんな 『更級日記』 にちなんだ展覧会ではありましたが。
コラージュした日めくりカレンダーに日記を綴る、
五所純子さんの 《ツンベルギアの揮発する夜》 といい、




ほぼ毎日更新されている今日マチ子さんの 『センネン画報』 の原画の紹介といい、




出展作品のほとんどが、「日記的」 な表現で制作されたものでした。
もちろん、作品自体は素敵なものが多かったのですが。
展覧会のテーマは、『更級日記』 でなくても、
『蜻蛉日記』 でも 『土佐日記』 でも 『猿岩石日記』 でも成立したような・・・。
そのコンセプトについて、モヤモヤ考えてしまう。
“更級日記考考” な展覧会でした。
星


ちなみに、今回の出展作家の中で唯一 (?)、
ちゃんと 『更級日記』 に着想を得た作品を作っていたのは・・・




ここ近年、手芸作家としても活躍する光浦靖子さん。
お笑いコンビ・オアシズの光浦靖子さんです。
『更級日記』 の乙女の気持ちを表現したという 《乙女山》 という作品以外にも、
光浦さんがこれまでに制作してきた数々のシュールなブローチ作品が展示されていました。




一お笑い芸人の作品が、鴻池朋子さんや髙田安規子・政子といった、
日本を代表する現代アーティストの作品と併せて紹介されているだなんて。
妙な感動があっただに。


個人的に、純粋に作品として惹かれたには、
現代芸術活動チーム目 【め】 の荒神明香さんによるソロ作品 《toi, toi, toi》 です。




なんて幻想的なシャンデリア!
と思ったら、その正体は、事故車のガラスの破片とのこと。




荒神さん自ら、夜な夜な道路に赴いては、
フロントガラスやらライトの破片を拾い集めたのだとか。
その作業を想像したら、軽くゾッとするものがありました。
会期中、このシャンデリアが落下しませぬように。


そうそう、余談ですが。
僕が訪れた日、美術館内には数えるほどしか、お客さんがいなかったのですが。
美術館に隣接するピザが自慢のイタリアンレストランは、
ウェイティングが何組も発生するくらいに大賑わいでした。
アートよりピザ。
それが、“東路の道のはてよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人”。




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