80歳を過ぎてから小布施に4度滞在した葛飾北斎の足跡をたどるには、町の3つの施設をまわればほぼ完ぺきです。

 

北斎の筆による龍の天井画がある岩松院(4/26のブログ)、同じく北斎の筆による祭屋台その他収蔵品がある北斎館、そして私財をなげうってそれらの大作を実現させた教養人・高井鴻山の旧居です。

 

 

 

今回、北斎館訪問時に開催されていた企画展は、「読本が結ぶ縁 馬琴と種彦」というもの。

 

 

 

馬琴と北斎が読本を通じてコラボした後決裂したことについては、以前興味を持って調べたことがあります。

きっかけは、2020年日経新聞夕刊連載「秘密の花壇」(朝井まかて氏作)でした。

馬琴の生涯を描いた小説です。

史実を綿密に調べて書かれたことがよくわかります。

 

ただ、最後はわりと駆け足で物語を終えていて、十分語らなかった部分もありました。

たとえば、息子の嫁・路(本来の名前は鉄。結婚を機に改名)の貢献度。

 

 

馬琴は晩年失明し、路が必死で文字を覚え、馬琴の口述により代筆をしたことが知られています。

実際、国立近代美術館で開催中の鏑木清方展にも清方作「曲亭馬琴」という絵が出展されていました。

 

絵の中で、目の見えない馬琴のそばで、路が口述筆記をしています。

薄闇の中行灯の光ごしに見える2人の姿が印象的。

2人で力を合わせて作品を世に送り出そうとする真摯な姿に打たれます。

 

清方作「曲亭馬琴」の画像はこちら↓で見ることができます。

 

 

 

「秘密の花壇」では、失明した馬琴と路の絆が描かれることを期待したのですが、それについてはほとんどスルー。

一気に作品を終わらせていたのが少々残念でした。

おそらく作者の朝井氏は、馬琴の力強さを余韻として残したかったのでしょう。

 

 

(↓馬琴のお墓そばに佇む、息子の嫁路のお墓。夫などと一緒に名前が彫られています。)

新聞小説「秘密の花壇」繋がりで滝沢馬琴が眠る寺へ」(2020/8/9)

 

 

また同じく「秘密の花壇」では、馬琴と北斎、2人の決裂についても必要以上に誇張することなく、比較的さらっと書かれていました。

最近の研究では、袂を分かったとはいえその後も北斎が馬琴の家に出入りしたこともわかっており、多少決裂の度合いが修正されているようです。

 

 

このように北斎館の馬琴x北斎の読本の展示は、そういった「秘密の花壇」の内容を再び反芻する機会になりました。

浮世絵版画の展覧会とも一味違い、とにかくダイナミックさが圧巻!

この躍動感、単独の人物像を描いた後、回転させて角度をつけて配置しなおしたのかな、などと想像しました。


「椿説弓張月」など、北斎が手掛けた読本挿絵30超のうち、計13が、馬琴作だったそうです。

 

 

「椿説弓張月」

 

 

本当に器用な人です。

浮世絵版画、北斎漫画、肉筆画、読本、、

軽妙、重厚、諧謔、、、さまざまな画風を縦横無尽に描き分けています。

 

「椿説弓張月」

 

 

馬琴と北斎を引き合わせたのが山東京伝だった、ということも、「秘密の花壇」で知りました。

 

下は、浅草にある山東京伝の机塚です。

小説につられて見に行った物好きな私。

 

馬琴と京伝の弟の不仲は小説のなかでも触れられていました。

たしかこちらの机塚の解説にも出ていたんじゃなかったかな。

 

馬琴と路、北斎、京伝、蔦谷重三郎、京伝の弟、、、

江戸時代の著名人たちがさまざまに交流したり、険悪になったり、助け合ったり、、、

生きのいい江戸の人間模様が書や絵や資料から浮かび上がるのが楽しいです。

 

 

 

 

 

さて北斎館に戻って、肉筆画の美人画はもちろん、こんな鶴の図もありました。

 

 

 

絶筆となる「富士越龍図」ももちろんあります。

以前東京のなにかの特別展で見ました。

上野の森博の肉筆展だったかなぁ。

 

どこかすうっと消えていくような龍が、命の最後にふさわしいようにも感じます。

それに対して、凛と佇む富士山。

 

ふわふわとシャープな対比、黒と白の対比の妙。

 

富士山の手前には、ほぼ平行な別の山の稜線が描かれ、二重奏になっています。

 

 

 

絶筆といっても、死によって最後まで書き/描き切れず、未完の作ではなく、

落款もあるので描き切った作品という意味での絶筆。

 

 

 

 

先に触れた、祭屋台のほうは2台ありー

 

 

まずひとつが、テレビで取り上げられた浪図のもの。

 

 

 

鳳凰の彫刻も見ごたえがあります。

「水滸伝」を描いた北斎の意匠に基づき、信州・高井村の彫師が彫ったもの。

 

 

 

天井画は今は複製におきかわっており、代わりに本物のほうは別途展示されています。

「男浪図」

 

 

「女浪図」

 

 

 

一方、もうひとつの屋台の天井画は「龍図」「鳳凰図」。

 

 

残念ながらこちらの本物は、九博だったかに貸し出し中でした。

なのでこちらは複製。

 

 

 

小布施、いたって見所の多い街でした。

 

 


小布施’22/春① 食事はココ 桜井甘精堂泉石亭
小布施’22/春② 花咲き乱れる庭 花の画家・中島千波館
小布施’22/春③ 栗の木テラス
小布施’22/春④ 今も色鮮やか北斎の天井画 岩松院にて
小布施’22/春⑤ 街並みと市中の小林一茶像
小布施’22/春⑥「偉人・素顔の履歴書」北斎編
小布施’22/春⑦ 北斎のもう1つの大作がある北斎館