昨日エジプト展の話をするためルーブル美術館で見たミイラの写真を漁っていたときに、一緒に釣り上げた画像があります。
いわゆる”トランジ”と呼ばれる分野の彫像です。
初めて”トランジ”という一種の芸術分野を知ったのは、何年か前にルーブル美術館を再訪したときのこと。
他の美術館や教会では見たことがなかったので、思わずガン見してしまいました。
いくつか種類がありましたが、例えばこれ。↓
一見普通の彫刻、あるいは棺用の彫刻に見えますが、近づいてびっくり。
生前の高貴な女性が上に、
下にはその女性の死後の腐敗しかかった姿が浮き彫りで表されています。
アップにします。河鍋暁斎もびっくりの、すごいリアリズム。↓
女性性はもう失われて、そういえば骸骨には女性も男性もないもんなぁと改めて思い知らされます。
他にもいくつか同様の作例がありました。
このように生前・死後の対比を像で表したものをトランジと呼ぶと知りました。
いわゆる死を忘れるな、というメッセージ”Memento Mori =メメントモーリ”の表象なのでしょう。
亡くなる前に遺言などで本人が残し、死後に制作されたりしたようです。
時代的には中世とルネサンス期の2度にわたり流行を見た由。
画像検索をしたところ、ほかにも虫やカエルに体を蝕まれて朽ち果てていく過程を表したグロテスクなものもありました。
これなどはまだマイルドなほうでしょう。
同じフロアには、こんな彫刻も。
聖イノサンの死と題されたもので、やはりメメントモーリの表象でしょうか。
西欧でペストが流行した時にも出回っていた死の舞踏も似たような図が用いられました。
最初のトランジの彫刻ですが、整然の女性の像は細部が細かく手つきなどはなかなか優美で、死後の彫刻との落差が大きいのが特徴。
子犬のそばで本を読む女性。手元はこんな感じー
服の浮き上がるボタンや地模様も細かい芸。
こちらの↓トランジは死後のもののみですが、肋骨が浮き上がって腐敗の過程にあるようです。
やはり女性像。
高貴な女性がこうした死後の醜い姿をあえて晒すというメンタリティがよくわかりませんが、たとえ一見ちぐはぐなものでも、流行という熱に包まれてしまえば、人々はこぞってそれに価値を見出す、、そんな現象はいつの時代も同じこと。
少し前の歴史を紐解けば、ストリーキングとか。バブル期のボディコンシャスなごっつい肩パッドとか。
ひとたび熱が冷めると、あら恥ずかしい、とかなんであんなものが、、と首をひねるわけです。