先日のエントリー:「目黒区美術館の藤田嗣治展はここが違う」にて

さわりを述べた通り、目黒区美術館の今回の藤田展では、

フランク・シャーマン氏の旧蔵品、いわゆるシャーマンコレクションが

重要な役割を担っています。

 

 

フランク・シャーマン、、元ジャーナリストで、GHQのメンバーとして来日し、

日本では印刷任務を担っていた人物です。

 

そんなGHQの人が、なぜ夥しい数の藤田作品を所有していたのでしょう?

 

実は来日前から藤田作品のファンだったシャーマン。

偶然藤田の家の所在地が職場と近かったと知り、

それがきっかけで親交を結びます。

 

 

戦後、藤田の米国渡航に尽力したのもシャーマンでした。

妻と一緒に脱出できず、妻の早期渡米を依頼するフジタからの手紙も

シャーマンコレクションの一部として保管されています。

 

つまり、シャーマンコレクションは、購入品作品だけでなく、

直接藤田からもらった品々も含むため、

唯一無二の親密で稀有な収集品でもあるのです。

 

 

目黒区美術館は、人を介してシャーマンコレクションが売りに出されていることを知り、

購入にこぎつけました。

 

まだ区の財政が悪化する以前の、良き時代だったのでしょう。

 

 

 

 

先日のエントリーにも書きましたが、

豊かな挿絵本の世界が広がっている本展覧会。

 

藤田がどんな作家とコラボしたのかをじっくり見ているとあっという間に時間が過ぎます。

ジャン・コクトーや、

ロダンの弟子のカミーユ・クローデルの弟ポール・クローデルとのコラボは有名ですが、

アンドレ・ジッドやポール・ヴェルレーヌ作品の挿絵も手掛けていて、

当時の画壇と文壇との接近ぶりを痛感させられます。

 

 

プライベートの手紙も秀逸です。

以前芸大美術館でも藤田の手紙を数多く目にしましたが、

本当に描くのが好きだったようです。

私信にも、ユーモラスな挿絵がふんだんに盛り込まれてます。

 


(写真は美術館敷地内になぜかある鐘)

 

 

上述の通り、藤田はGHQのシャーマンにより優遇されますが、

従軍画家として戦争画を描いたことで国内では戦犯扱いされます。

 

彼の最後の妻は、藤田が日本にさんざん利用された上に名誉を汚されたことに承服しかね、

著作権を厳しく保護。

ですので、没後50年とはいえ、その大半は、藤田作品が日の目を見ることはなく、

ようやく、ここ10年ほどで多くの人の目に触れる機会を得ました。

 

(美術館敷地内。きっちり整備されているというより、野性味漂う場所=はっきり言えば割と放置状態です。)

 

 

本展示品は目黒区美術館所蔵品だけでなく、ベルナール・ビュフェ美術館からの貸与品などもあり、

いつもの目黒区美術館の藤田展とは一味二味違います。

なにしろ没後50年展ですからね。

1886年11月27日に生まれ、1968年1月29日に没しました。

 

 

(入口は地味にこんな感じ)

 

 

藤田が手掛けた美しい挿絵本からは、フランスと日本のはざまで揺れた

本人像も浮かびます。

 

来日中にはフランス語の翻訳本を通してパリの光景などを数多く描き、

フランス滞在中には、日本やアジア文化と結びつきの深い本を手がけました。

 

 

2つのアイデンティティをうまく使いこなしているようにも見えますが、

どちらの国にあってもエトランゼの気分はあったに違いなく、

2つの文化がまじりあう様子を見るにつけ、

決して生易しい状況ではなかっただろう、と感じられました。

 

 

 

 

 

没後50年 藤田嗣治 本のしごと 文字を装う絵の世界

目黒区美術館

会  期:2018年4月14日(土)〜2018年6月10日(日)時  間:10:00~18:00
(入館は17:30まで)休館日:月曜日 ただし、4月30日(月・休)は開館し、翌5月1日(火)は休館。

観覧料:一 般 1,000(800)円 大高生・65歳以上 800(600)円 小中生 無料
*障がいのある方は半額・その付添者1名は無料。
*(  )内は20名以上の団体料金。
目黒区内在住、在勤、在学の方は、受付で証明書類をご提示頂くと団体料金になります。(他の割引との併用はできません。)