翌日、文化祭の朝になった。
アサギ『……あ、鞍馬先生』
鞍馬『おはよう、雨にならなくて良かったな』
アサギ『あの……先生は、何者なんですか?』
アサギが気付いた時には、既に過去に戻っていた。
タイムスリップなどは、漫画の中だけだと思っていたが、それが現実になった。
何度もこれは夢だと思って、頬をつねったこともあったが、間違いなく現実だ。
また自分の人生で、2度目の文化祭を体験している。
アサギは開口一番、鞍馬に質問をした。
こんな技を使えるなんて、人間ではないと思ったが、本当にその通りだ。
鞍馬『…“アゲハ族”ってやつかな』
鞍馬は、アゲハ族の人間だった。
ーアゲハ族
鞍馬 弘経(30)ー
アサギ『……じゃあ、アゲハ族全員って…その能力を持ってるの?』
鞍馬『いいや、これは俺だけだ。何故か知らんが…いつの間にか持つようになった』
アサギにアゲハ族の事を簡単に説明し、そして自分の力の事を教える。
鞍馬は、『時間関係』のネクロだった。
鞍馬『5年くらい前に、敵地に潜入したことがあったんだが、その時に一発殺られてな。死んだかと思ったんだが、生き返った。そして同時にこの力を手に入れた』
アサギ『すごい…そんな力があるなんて…!』
鞍馬『本当は誰にも明かしたくなかったんだがな。こうやって騒がれるし』
アサギ『じゃあ…どうして俺に?』
鞍馬『……自分の行いが、間違いだと気付いたからだ。そう言う人間には、チャンスを与えないと行けない。更正のチャンスをな』
アサギ『…更正のチャンス……』
『お!おはよう浅野くん!』
アサギ『!』
教室の方が騒がしくなる。
文化祭当日の朝に、浅野がやってきたのだ。
アサギが浅野を早退させた未来では、こうはならなかった。
未来を変えることが出来たのだ。
アサギ『浅野くん……良かった。お母さんが、死なずに済んだんだ』
鞍馬『いや、それは…』
担任『浅野くん、おはよう…。いいのかい?お母さん、亡くなったのに……』
アサギ『え?』
こうして浅野が学校にやって来たと言うのに、浅野の母親は助からなかった。
アサギは鞍馬を見るが、鞍馬は何もせずに見ていただけだった。
アサギ『ど、どう言うことですか?浅野くんは来たのに……お母さんが亡くなるなんて…!だって、こうして戻ることが出来たのに…!』
鞍馬『言ったハズだろ?浅野のお母さんは、いつ亡くなってもおかしくない状態だった。俺の力は、時を戻す力はあっても、命を戻す事は出来ない。その運命だけは、変えられない』
アサギ『そんな…!じゃあ…!もう一回戻してください!そうしたら…』
鞍馬『それも出来ない。俺自身は好きなタイミングで戻る事が出来るが、他人の時間を戻した場合、それは1人に1回しか使えない。ましてや何度も戻したとしても、“未来でこうなる”って事を話しちゃいけない。現実や未来が大きく崩れる』
アサギ『い、1回だけ…?』
ー巻戻(リワインド)ー
使用者:鞍馬 弘経
時間を好きなタイミングで戻せる能力。何度も直すことが出来る。自分以外の人間と共に時間を戻したい場合は、その人間に触れて発動することで、戻せる。但し1人1回のみ。
また、未来で起きることを口にしてはいけない。タイムパラドックスが起きる。
アサギ『で、でもそれじゃ……結局は浅野くんが、学校を辞めることになるんじゃ……』
鞍馬『見てみろ』
鞍馬がアサギを教室の方へ向かせる。
浅野の母親が亡くなった事を耳にしたクラスメイト達が集まる。
『浅野くん大丈夫?お母さんが亡くなったのに…』
『そうだよ、家に帰った方が…』
浅野『…僕もそうしたいけど、母さんが言ってくれたんだ。僕の演劇を見たいって』
アサギ『…!』
浅野の顔は、母親を亡くしたショックで元気がないのかとばかり思っていた。
でも、浅野の顔は元気そうだった。
浅野『昨日ね…母さんが眠る前に、話してくれたんだ。“空の上で、お前の演劇を楽しみにしてる”って…。だから、僕は演劇に出るよ』
『そ、そうなのか…?』
『無理はしない方が…』
浅野『ううん、無理じゃないよ。俺が演劇に出ずに泣いてばかりだと、母さんも喜ばないと思うから。もちろん、演劇が終わったら…病院へ戻るよ』
アサギ『…!』
浅野の母親が救われなくて、残念だと思っていたが、別の未来が生まれた。
最後に母親と話せて、浅野は少し前を向いていた。
アサギがもし、同じ様に早退させなかったら、こんな未来は無かった。
鞍馬『さぁ行け、お前も言うことあるだろ?』
アサギ『!……はい!』
鞍馬に背中を押され、アサギは浅野の前に出る。
浅野と眼が合うと、アサギは言った。
アサギ『……浅野くん、演劇に参加ありがとう』
浅野『斑目くん…』
アサギ『君の出番が終わったら…、お母さんのところに、行って良いよ。今まで、ごめんね…』
浅野『…!ううん、ありがとう……っ』
アサギの言葉が、浅野に喜びを与えた。
もう、ルールや正義感に浸ることを、この時を持って止めた。
『良かったなぁ~!浅野!』
『なぁ!じゃあ皆で演劇終わったら行こうぜ!浅野のお母さんに、浅野はスゴい奴ですって!』
『いいね!行こう行こう!』
アサギ『も~皆、皆で行ったら……まぁ、いいか』
この流れに水を差す発言はよそう。
そう思い、アサギは了承した。
こうしてこの後の演劇は、大成功となった。