(1)前回までのあらすじ
このシリーズ「青毛について考える」では、黒い毛色の馬をなぜ「青毛」と表記するのか、という疑問から始まり、
京都の上賀茂神社に伝わる「白馬(あおうま)奏欄覧神事」やその起源ともなる朝廷の「白馬の節会」に供される馬の毛色を考察しました。
前回の記事では、そもそも「青」とは何か?
という疑問を提示しました。
つまり、古代において、「青」は現代の我々が認知する「blue」と完全に一致するものではない、という問題提起を投げかけました。
今回は、古代日本語で「青(あを)」にはどんな意味があるかを考えてみたいと思います。
(2)漢字「青」の字の成り立ち
まず、漢字の「青」の成り立ちから考えます。
「青」の旧字体は「靑」です。
この「靑」は金文ではより古い形が刻印されています。
金文:青銅器の表面に鋳込まれた、あるいは刻まれた文字のこと。
「靑」の上の部分(もとは「生」の字)は草木、植物が生えてきているところを表します。
「靑」の下の部分は井戸の底に堆積した土から採取する染料である「丹(「たん」、和語では「に」)」を表します。
つまり、「靑」という漢字は、「靑」の染料を取る方法と、これが植物に由来することを絵で表していると考えることができます。
そして、興味深いのは、この「靑」は、陶磁器の染料も用いられるもので、陶磁器の青は器を「聖なるもの」へと転化させ、邪気を祓うため、と説明されていることです(「コトバンク」の記事を参考にしました)。
下の写真(青磁)の色です。少し緑がかっていますね。
私見では、「緑」の語源は「みどろ(水の泥)」で、これは中国で染料の「青」を採取するとき、井戸の底の堆積物(泥)から精製するという説明に合致します。
日本でも、緑色は初め「青」と認識されていたと考えることができます。
このように、古代中国の「青」は現在私たちが認知する「青(blue)」とは、ほど遠いものであることが確認できました。
青磁は中国の殷代(紀元前1600年頃 - 紀元前1400年頃)に起源をもつもので、上の写真は南宋(13世紀)の作品です。
時代が大きく隔たっているので、使われた顔料や製法も異なるものと思われます。」
ですから、上の写真の色が古代の「青」を厳密に示すかどうかについては、慎重に考えなければならないでしょう。
図は以下のサイトからお借りしました。
【参考】コトバンクの「青」の解説を以下に引用します。
字の初形は生に従い、生(せい)声。〔説文〕五下に「東方の色なり。木、火を生ず。生丹に從ふ。丹の信、言必ず然り」とするが、字は形声。丹青は鉱物質のもので変色せず、ゆえに「丹の信」という。殷墓の遺品に丹を用いたものは、今もなおその色を存しており、また器の朽ちたものは土に印して、花土として残っている。丹や青は器の聖化・修祓のために用いるもので、たとえば靜(静)は力(耜(すき))を上下よりもち、これにを加えて修祓する農耕儀礼をいう字である。
(3)古代日本の「青」
次に、日本古代の「青」はどのような色かを見ていきたいと思います。
参考になるのは『万葉集』に収められている歌に出てくる「青」(表記は「青」または「安乎(あを)」)です。
実はズバリ「青馬」「青駒」とある歌も掲載されていますが、こちらはあとで書くことにして、まずは一番有名な「あおによし」から。
高校の時に古文で習ったかと思いますが、「あおによし」は「奈良」にかかる枕詞です。
第三巻:0328の小野老(おののおゆ)が詠んだ以下の歌が有名です。
青丹(あおに)よし寧楽(なら)の都は咲く花の薫(にほ)ふがごとく今盛りなり
この冒頭にある「青丹(あおに)」とは、「青い土」のことで、この土を成分とする色の名前でもあります。
「青丹(あおに)」は、下のような色になります。
こちらも緑系の色になります。
『万葉集』に歌われている「青」「安乎(あお)」はほかには、「青旗」「青浪」「青雲」「青柳」「青海原」「青山」「青草「青垣山」「青松」などがあります。
いずれも、植物系の緑や海の青に近い色で、「青」の指す範囲が広いことがわかります。
でも、「青毛」の馬のような黒に近い色は見られません。
少しガッカリです。
次回は、『万葉集』にある「青馬」「青駒」を検討します。
本丸に突入、です。
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