長編小説「思春期白書」 86~ボタン~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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光と陰。

 

日常生活より、何かしらの特別な日に差を知らしめる、今日がまさにそれだ。

 

 

「せんぱーい!写真撮ってくださーい!」

 

黄色い声に目をやれば在校生の女子が群がる。あまりの多さに肝心の男子の姿が全く見えない。「サッカー部の白河だ」と、キシモンは軽い口調で教えてくれたが、その鋭い目付きはみっともないくらいの妬みを帯び、僕はただただ辟易する。同じ土俵の上にすら立ってないってのに、随分と身の程知らずな嫉妬だ。

 

「白河」の名前には聞き覚えがあった。

 

白河大我(しらかわたいが)

 

下の名前から「タイガー」とも呼ばれるが、その迫力ある響きとは真逆の爽やかな奴だ。ヒロとトシを合わせて割ったような、つまり、絶対的な光、見掛けたのは数える程度だけど、同じ空間に立つのが申し訳ないとさえ思うほどの輝きを放っていた。あれがオーラってやつか。ジャニーズやジュノンボーイに匹敵しそう、もしくはそれ以上かもしれない。

 

「ケッ!あんなんのどこがいいんだか、ちょっと背が高くて目鼻立ちが整っててサッカーが上手で性格も頭もいいってだけじゃねえか」

 

けなすどころか褒めちぎるようなボヤキにクリリンはコツンと頭を叩いた。その理由はユリちゃんの視線だ。獲物を見付けたハイエナみたいな大群に彼女が飛び込めるわけもなく、遠くから隙間を探す姿は何とも健気で何とも儚げ。少し潤んだようにも映る横顔をされちゃ「さっさと行こう」などとは誰も言えない。だから僕らは校門の近くに佇み、聞きたくもない光の騒めきを拾った。白河大我に限ったことじゃない。レベルは違っても似たような光景は四方八方に広がり、陰に苦々しさを与える。まあ、制服の第二ボタンを奪い合う醜態はなかなかに痛快だが。しかし、ボタン程度にどうしてあんなに執着するのか、たかがボタン、されどボタン。

 

 

「ごめん、待たせちゃったね。さぁ、行こう」

 

存分に獲物を堪能したハイエナが散り白河大我がようやく姿を現すと、ユリちゃんは満足気に呟いた。髪も制服もアスファルトに落ちた卒業証書までもがぐしゃぐしゃな様は追い剝ぎに遭った並みのレベルだが、零す笑みは優しく、まんざらでもなさそうだ。通り過ぎる他の卒業生たちもボタンの無い方が嬉々として、それは彼、彼女らのステータスなのだと思った。バーバリーのマフラーを巻いてるのと同じようなものだ。

 

「よぉし、ここからが本番だ、行こうぜ」

 

ボタンは無くても、言葉を交わすなら絶好のチャンス、なのに、それを選ばなかったユリちゃんの気持ちは何となく分かる。「伝えた方がいい」などと言うのは無責任だ。「伝えない方がいい」、そういう場合もあるってことをきっと光は知らない。無邪気さを演じるユリちゃんの小さな背中を眺めながら僕はほろ苦いものを感じた。

 

 

「あー、くそっ!何で今日に限って…」

「皆、考えることは同じなのよ」

 

クリリンの言う通り、僕らの見通しは甘かった。カラオケボックスは既に満室、しかも予約もギッシリと詰まっており、諦めるしか選択の余地は無く、僕らはとりあえず近くの公園に足を運んだ。制服の群れが居ないのは幸いだが、親子連れも誰も居ないって…何だか侘しい。この時代に取り残された錆び付きを思えば当然かもしれないし、僕らには相応しいのかもしれないけどさ…

 

「こんなとこやめようぜ、墓参りみてーだ」

「鳩さえいないのはさすがに寂しいわね」

 

とはいえ、こんな大所帯じゃ誰かの家に…ってわけにもいかず、僕らは奥の水飲み場辺りに固まると、囁くように卒業を祝った。まあ、いっくんが引っ越すまでは集えるわけだし、さほど落ち込むことでも無いのかもしれないけど、今日という日が陰のまま終わるのは複雑だ。それに、決して口には出せないが、受験の合否はまだ不明、集う心境を失う恐れもあった。

 

 

「修学旅行は最悪だったな、お前らも覚悟しとけよ、スキー研修」

「あんたが最悪だったのは女子の部屋に行こうとしてこっぴどく叱られたからでしょ?」

「そういえば女子のお風呂を覗く計画書も作ってたよね?それも見付かって正座させられたんだっけ?」

「やっぱり男ってそういうこと考えるのね。あんた達もどうせ同じ事するんでしょ?」

「「しないよ!!」」

 

…と、まあこんな感じで思い出を重ねていくうちに、時間はあっという間に過ぎ去った。どこで過ごすかじゃなく誰と過ごすかが大事。以前、テレビで流れた言葉に「なるほど」と頷く。心地良い世界に佇むのなら光と陰など関係無いのかもしれない。青から薄紫に変わる空は眩しく、僕らはその下に立っているのだから。

 

思い出話の途中、感極まったのか、ユリちゃんの目から雫が落ちた。「埃が入ったせい」と強がる姿は何ともいじらしく、ハンカチで拭うのを眺めながら、僕はあることを思った。決意した、と言った方が正確だろうか?

 

時間は待っててくれない。

だからこそ僕らは、決意しなきゃならない。

青が薄紫を、そして夜を受け入れるように。

 

じゃなきゃ、いつまで経っても朝は来ないから。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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