長編小説「思春期白書」 84~ドキュメンタリー~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「おっす!久しぶりだなぁ」

 

いつものように8時半に登校すると、門の前に1人の女子生徒が立っていた。それが大渕千賀子だと気付くまで少しタイムラグがあった。彼女の見た目が劇的な変化を遂げていたからだ。

 

「どしたの?その格好?」

 

髪は真っ黒、化粧っ気も無ければつけまつげやピアスの類も無く、スカート丈は長い。ルーズソックスも普通の紺のソックスに変わっていて、正しき中学生の姿そのものだった。一般的に言えばそれが当たり前なのだけど、大渕千賀子のこれまでを踏まえりゃ違和感を覚えてしまう。どこかに頭を強打したのだろうか?或いは仲間内の何かの罰ゲーム…

 

「何か文句あんの?」

「ありません」

 

1月の中旬頃に担任と揉め事を起こし「もう来ねーよ」とか豪語していたくせにどういう心境の変化だ?首を傾げながらも僕の足取りは少しだけ軽くなった。午後からの卒業式の練習、逃げ出したい気持ちは変わらないけど、腹を括らなきゃとも思う。大渕千賀子もユリちゃんやクリリン同様、送り出したい卒業生に加わったから。

 

 

「おはよう。あれ?もしかして…大渕さん?」

 

大渕千賀子の豹変した姿に保健室は大きなどよめきに包まれた。中でも白鳥先生の驚愕っぷりは凄まじく、硬直状態で瞬きさえ失ったかと思えば覚束ない足取りで歩み寄り、その瞳には微かに光るものがあった。まるで生き別れた娘と再会するドキュメンタリー番組みたいだ。

 

「よく来てくれたわね…」

「オーバー過ぎ。ウザい」

 

だが、大渕千賀子にとっての本当にウザい状況はここからだった。駆け付けた担任も白鳥以上のリアクションを取り、彼女を知る職員が次々に現れ、保健室は一時、お祭り騒ぎになった。後から聞いた話によると、両親の離婚が決まり、暴力を振う父親と既に離れている、そんな明るい兆しが騒ぎに拍車を掛けたようだ。まあ、このときは僕は何も知らなかったし、彼女同様に「ウザい…」と、思ったけど。

 

 

「えっ!マジ!?転校すんのっ!?」

 

祭りのあとの静けさに沿うようにいっくんは転校の事実をチカ、田村先輩、それから長谷部に伝えた。受験は既に済んでいて、午後にはユリちゃんたちも知らされることになる。

 

「うん。でも、そんなに遠くってわけでもないし…」

「電車とバスを乗り継いで半日以上掛かんだろ?充分遠いって」

「その気になりゃ会えるさ」

 

その気になりゃ…ね。少なくとも僕はならないだろう。この恋を抱えてる限りは…

 

「まだまだ勉強とか教えてもらいたかったのに…」

 

長谷部の表情は曇りより雨に近かった。短い期間だが、彼女もまた、淡い恋を抱いたのかもしれない。まあ、僕に比べりゃ叶いそうな恋だ。けど、もし叶ったとしても僕の炎はそう簡単に消えやしない。目まぐるしい日々を越えた今、想いは再び複雑に揺れる。実は、手紙も書いた。箇条書きの羅列じゃなく、手紙として成立するものを。引き出しの奥に眠ったそれがどうなるかは…まだ不明。

 

 

「太一くん、頑張って。僕も頑張るから」

 

昼休みになり、公平が迎えに来ると、いっくんはうららかな春みたいな笑顔をくれた。いきなり皆の中に飛び込むより昼休みの間に教室に入った方が溶け込みやすい。不安さに揺らぎは無いが鬼婆の提案は悪くない気がした。ちなみに長谷部には桑原と唐橋紗智子の迎えが来た。1人じゃないだけまだマシと捉えるべきか。

 

渡り廊下を過ぎ、途端に足がすくんだ。全学年の全クラスで考えれば僕の存在を知る人など微々たるものだが、通過する生徒たちの眼差しが皆、自分に向けられているような錯覚を抱く。それは、長谷部も同じだった。さっきの悲哀とは全く違う引き攣った顔は恐怖と不安に蝕まれたもの、彼女の手を引く桑原の力が強くなる。

 

「大丈夫よ。今は殆ど誰も居ないし」

「そうそう、太一も安心しな」

 

理屈じゃない。とか叫んだところで公平たちには伝わらないだろうし、状況が変わるわけでもない。僕と長谷部は顔を見合わせると覚悟を決め、教室までの僅かな道を進んだ。脳内にミスチルの「名もなき詩」を流しながら。

 

確かに殆ど居ない教室内に踏み込むと公平は窓際の一番奥の席に誘導した。どうやらこの半年の間に席替えがあったらしい、長谷部は廊下側の奥、隅に追いやられた…ってのは被害妄想が過ぎる。目立たない場所、という配慮だろう。

 

数人のクラスメイトの「久しぶり」とか「よく来たね」とかの好意的な声を受けると、僕は軽く息を付いた。今頃、図書室はあらゆる騒めきが起きているに違いない。キシモンは「水臭いぞ」とでも言うだろう、ユリちゃんやクリリンは「寂しくなるね」みたいな言葉、もしかしたら涙を零すかもしれない。

 

その瞬間に立ち会えないことが良いのか悪いのか僕は判断に迷う。いっくんの辛そうな表情は見たくない。だけど、いっくんに捧ぐ皆の寂寞は目にしたい。ふざけた考えだろうか?

 

しかし、ヒロが1人で教室に戻ってきた瞬間、僕の思考は違う方に向いた。桑原のビンタが炸裂したあのときのことが鮮明に蘇ったから…

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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