長編小説「思春期白書」 81~なれない。~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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2月に入り、布団から抜け出すのが更に億劫になった頃、ヒロが保健室を訪れた。それは今年になって初めてで、もういい加減、諦めたのだろうと高を括っていた僕の背筋が凍り付く。しかし、彼の用件は別のところにあった。

 

 

「せっかくだし、クラスの皆で何か思い出を残したくてさ。どうかな?」

 

僕と長谷部、それからたまたま来ていた公平、桑原、唐橋紗智子の前でヒロは1枚の紙を掲げた。ヒロと噂の立った唐橋紗智子、気まずさを危惧した僕だったが、どちらの表情も特に曇ることはなく、長谷部の顔だけが歪んだ。宮田と共に熱視線を送った月日を思えば当然の反応か。実際のところ、彼女はヒロに好意があるのか、宮田に合わせていたのか、何となく後者な気がした。

 

 

「1年生さよならパーティー~こんにちは2年生~」

 

 

「こんにちは2年生」を付ける必要性はともかく、いかにも光の考えそうなことだと思った。実は12月の終業式直前にも「皆でクリスマスパーティーやるから来ないか?」と、誘われていたのだ。そのときもご丁寧に案内の紙をくれたが、保健室登校者の僕がのこのこ顔を出せるわけがない。やるなら光の皆さんだけで勝手にやればいい、どうしてわざわざ誘いに来るかね…

 

「遠慮しとく。期末試験の勉強もあるし」

 

普段なら曖昧に濁すところだが、無神経さに怒りを覚えた僕はすぐさま「NO」を下した。「NO」が言えない日本人の気質をまんま背負った僕にしては珍しいことだ。

 

「私もやめとく」

 

長谷部が僕に続くと、ヒロはちょっとだけ目を丸くしたものの、0.数秒の速さで溌剌スマイルに戻った。別にここにいる誰もそんなものを求めちゃいないってのに、ヒロにとってそのオロナミンCみたいな振舞いは癖なのかもしれない。無意識的に髪を触るとか、股間に手をやるとか、そういう類だ。

 

「そう冷たいこと言うなって、宮田とも仲直り出来るチャンスかもしれないぜ」

 

この一言に僕以外の表情が強張った。もしかしたら宮田と揉めたのはクリスマスパーティーの場なのか?戸惑う僕をよそに思い掛けない出来事が起こる。桑原が静かに歩み寄ると、ヒロの頬を引っ叩いたのだ。パチン、と、爪切りみたいな音が轟き、保健室は瞬時に騒然とした。いっくんや田村先輩はもちろん、事態をいまいち把握し切れていない僕も、どうしていいのか分からない。

 

 

「あんたのそういうとこ大っ嫌い!人の気持ちなんてこれっぽっちも考えない!」

「考えてるさ、だからこうして…」

「酔ってるだけでしょ?あんたは弱者を助ける自分が好きなだけよ、いいえ、弱者だって勝手に決め付けてる。対等なフリをしながら周囲を見下してんのよ」

 

「ちょっ!待った!とりあえず落ち着こう!」

 

胸倉を掴みそうな勢いの桑原をいっくんが背後から羽交い絞めにし、その間に公平はヒロを廊下に連れ出した。桑原はいっくんに任せ、僕は2人の後を追った。茫然自失といった様子で窓辺にもたれ掛かるヒロ、職員室の白鳥を呼びに行こうとも思ったが、いつになく鋭い視線の公平が首を振ったため、僕は立ち尽くすしかない。

 

「…見下してる…か。公平もそんな風に見えてたのか?」

「まあね…ってか、あのさ、太一、悪いけど僕らだけにしてくれないかな?もうじきチャイムも鳴るしさ」

「あ…うん…」

 

「先生とかには内緒にしといて」

 

保健室から離れていく2人の背中に、僕はもどかしさと現実を思い知った。小学校が一緒、それだけじゃない同じ教室内だから分かる繋がりみたいなのを感じたせいだ。保健室登校から5ヶ月、あっという間な錯覚を抱いてたけど、僕と教室の距離は想像以上に離れてしまったらしい。

 

チャイムが鳴ると同時に桑原と唐橋紗智子が現れ、こちらを見ることもないままスタスタと歩いていった。まるで空気みたいな存在感、いや…何の役にも立たないなら空気にさえ届かない。道端の石ころ辺りが妥当か、とにかく、僕がこの件に関わることは無いのだろう、どうして、桑原を制止するくらい出来なかったのか?

 

幼い頃、母さんと乗った貸しボートを思い出した。自分から「乗りたい」とせがんだくせにオールを漕いでも漕いでも思うように進まず、同じところをグルグル回るだけ。結局、係員に助けられ降りられたけど、母さんは「あんたがせがむから恥を掻いた」と僕を詰った。まあ、実際その通りだったし反論出来なかったけどさ。

 

今だってそうだ。

僕が自ら招いた結果、反論の余地は無い。

 

 

「太一くん、彼…ヒロくんだっけ?大丈夫?」

「うん。もう教室に戻った」

「そっか」

 

俯き今にも泣き出しそうな長谷部に寄り添ういっくんを見て、僕は虚無感に苛まれた。

 

「なりたい」ものに「なれない」

 

そりゃ、急激な変化は無理だけど、少しは成長したと思っていた。だけど、この無力さ、勘違いも甚だしいと挫かれた気分だ。

 

 

「太一くん、後で話があるんだけどいいかな?」

 

あれだけのことがあっても至って穏やかないっくんの余裕さに嫉妬に駆られながらも僕は頷いた。

 

僕の恋が更に掻き乱される、そんなきっかけになるとも知らずに…

 

 

 

(続く)

 

 

 

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