長編小説「思春期白書」 70~彼の告白、僕の告白~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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中間試験の最終日、打ち上げと称して図書室メンバーとカラオケに行った。クリリンやユリちゃんたちは受験を控えているため、皆で遊ぶのは久々だし、これからしばらくは無理。だから「打ち上げ」という括りにしたのだ。まあ、受験に楽観的なキシモンはまだまだ遊ぶつもりらしいが、僕らからすりゃ困った話だ。万一、落ちた暁には何らかの責任を感じてしまうだろう。直接的かどうかは関係無く。

 

 

「おいおい、お前も何か歌えよ。ノリが悪ぃぞ」

「う、うん…」

 

お前が無理矢理連れて来たんだろうが。そう言いたいのをグッと堪え、居心地悪そうに縮こまるいっくんに「シーソーゲーム、一緒にどう?」と、誘った。流行りの歌には少し疎いらしいが、ミスチルが好きだと前に言っていたのだ。

 

渋るいっくんに実力行使とばかりに僕は番号を入力した。クリリンや桑原が控えているから順番が巡るのはまだ先だしどうしても拒むなら公平を付き合わせりゃいい。すると、奥にドカッと足を広げて座るキシモンが徐に立ち上がり、僕の腕を引っ張った。人数が多い息苦しさは外の空気を欲してはいたが、どうしていつもいつもこの男と連れションしなきゃなんないのか、これじゃまるで僕らが付き合ってるような構図だ。というより、コイツが居なきゃ窮屈な思いをせずに済むのに。

 

 

「なあ、今日がチャンス。そう思わねーか?」

「まあ、今日を逃せば受験後になりますからね」

「何だよ他人事みたいに。お前もユリちゃんにコクるんだろ?」

「はあ?そんな約束してませんよ」

 

 

正直、僕は苛々していた。クリリンへの告白に関する相談はもう充分ってくらいに聞き飽きた。「合唱コンクールの後」だの「体育祭の後」だのこの男は口ばっかりで一向に実行しない。どうせ今日だって言わないままに終わるのだ。それに、こういう言い方は失礼だが、ユリちゃんへの想いはやはりまやかしだった。女を好きになろうと必死な僕が抱いた錯覚。保健室登校でいっくんと過ごすのが日常になった今、僕の想いは彼だけに向いている。いつからかは分からない。気が付けばそうだった。恋というのはそういうものだって誰かの歌にもあったし、そんな歌が無くても、いっくんを好きなことに変わりは無い。

 

 

「けどよー、フラれちまったら受験なんかやる気出なくなりそーじゃん」

「じゃあ受験後にコクったらどうっすか?」

「でもよー、魚の骨が刺さった状態のこの感じ、こんなの抱えちゃ受験に打ち込めねーじゃん」

「ああ!もう!苛々する!僕は知りませんから!」

 

 

放尿しながらキレるってのも格好悪いが、僕は滅多に出さない大声を張り上げると、隣に目もくれず小便器から離れた。その気になりゃいつでも告白くらい出来るだろうに、こっちはしたくても出来ないんだっての。魚の骨の違和感をずっと抱えてなきゃならない、そういう星の元に生まれたのだ。こんな風に誰かに相談すら不可能な人間の気持ちが分かるのかよ、全く…

 

 

「あっ!ちょっと待て!悪かった」

 

手も洗わずに腕を掴むキシモンに不快感を示しながらも、とりあえず「答え」くらいは聞いてやることにした。図体はデカいくせにタマは小さい。けど、クリリンだけを想い続ける純な部分に打たれたのも確か、このまま告白もせずに卒業しちゃったら僕としても消化不良だ。

 

「カラオケが終わったら…伝える」

「分かった。じゃあ僕が2人きりになれるようにするから」

 

余程僕に見捨てられるのが嫌だったのか、キシモンの表情は固く、だけどその覚悟に賭けてみようと思った。どういうきっかけにせよ覚悟が決まったならまた迷ってしまわないうちに事を進めた方がいい。まあ、他人事だから言えるんだけどさ。

 

 

カラオケ店を出ると、家事が待ついっくんとは別れ、僕らはいつものように大型スーパーへ向かった。結局「シーソーゲーム」はか細い声のいっくんを僕が掻き消してしまったけど、そもそも無理矢理連れて来たキシモンが悪いわけで、桑原や公平の目はいささか冷ややかだった。むしろ「ナイスフォロー」と僕の株が上がったほどだ。

 

 

「しばらく無理だろうしプリクラ撮っとこう」

 

予想通りに撮影会が始まると、僕はキシモンをトイレに誘った。別に両替とかの名目でもよかったのだが、トイレはゲームコーナーを抜けた離れた場所にあるし、人目を避けるには打ってつけだ。

 

「じゃあクリリンを呼んでくるから待ってて」

「な、なあ、本当にやるのか?俺、足がすくんで…」

「今更何言ってんだか。男を見せてよ、先輩」

「お、おい!」

 

ゲームコーナーの入り口に放置し、僕はオレンジジュース片手に談笑中のクリリンに「キシモンが呼んでる」とだけ伝えた。過呼吸に近いくらいのキシモンの狼狽を思えば荒っぽい気もしたけど、ここで背中を押すのが僕の役目だ。それに、これ以上の往生際の悪さは見るに耐えない。

 

「キシモンが?何かしら?」

「さあ、呼んで来てくれって頼まれただけだから」

 

肩をすくめる自分のわざとらしさに過剰演出な気もしたけど、スタスタ歩き出すクリリンの背中を見る限り、まさか「告白」とは思ってなさそうだ。

 

「僕も何か飲もうかな」

 

自動販売機のラインナップを眺めながら僕は鼓動の高鳴りに気付いた。大した御膳立てをしたわけじゃなくても、他人事であっても、キシモンの心境を思えば心臓は騒がしい。

 

予行演習…そんなつもりじゃなかったのにどうしてだかいっくんにコクる自分ってやつを僕は無意識的に思い描いた。

 

言えるはずない。

 

絶対無理。

 

 

…なのに、彼の横顔が脳内を埋め尽くし、自販機はじれったそうに赤いランプを灯していた。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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