長編小説「思春期白書」 68~得手に笑えば~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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前回の話はこちら

 

69話はこちらから

 

 

 

 

前にも話したけどいっくんの保健室登校の理由は不明だ。自発的に触れるならともかく、周囲があれこれ詮索しない、それは暗黙の了解ってやつで、逆に言えば、僕の理由もいっくんは知らない。ヒロや保たちが根気強く教室に誘い、根気強く僕が拒むのを幾度目にしても同じだ。

 

 

「正義!ちっとは勉強しろ!」

「いいじゃん別に。俺、中間試験とか無いし」

「ったく…せめて音量ぐらい小さくな」

「ほーい」

 

正義が兄の保健室登校を知れば何がどう影響するのか?傍目から見りゃ何も影響しない気もするが、隠しておきたいのは「兄の威厳」ってやつだろうか?

 

しかし、せっかく僕らが来てもひたすらに試験勉強に取り掛かってりゃ、正義が不機嫌なのはよく分かる。口には出さないが寂しいのだ。僕だって「部屋は明け渡さない」の意志は固くても「そろそろ帰ってくりゃいいのに…」とも思う。弟ってやつはいつだって我儘な甘えん坊。ううん、少し違うか。我儘な甘えん坊の特権を得た存在。喧嘩すりゃ大体、兄ちゃんが「お兄さんなんだから」という理不尽な理由で怒られ、その都度「弟でよかった」と味を占めた。今になって振り返ればいくつか思い当たる節がある。悪い事したな…ってさ。今更反省してもしょうがないけど。

 

ひと段落付いたところで僕らは正義と正子を連れ、運動公園へ出掛けた。言うまでもなく公平の提案だ。

 

「体育も出てないんだから太一も体を動かした方がいい」

「動かしてるって。体育の授業より長いくらいだし」

 

公平は笑って「有り得ない」と首を振ったがそれは事実だった。

学年主任の安藤という定年の近そうな女性教師が度々保健室に顔を出しては「今、どのクラスも体育館使ってないから」と、バドミントン、卓球、バスケなどの誘いを掛け、運動好きな瀬川くんは真っ先に飛び付き、そうなりゃ当然、僕も巻き込まれる。おとといなんかグラウンドが空いてたもんだからサッカーすることになって、でも、圧倒的な人数の少なさからひたすらPKだ。授業ならボールに触れないで済むときもあるのに何度蹴らされ、ゴールキーパーとして立たされたことか…しかも、余程暇なのか、他の教師も数人やって来るし…中間試験目前だぞ、仕事しろよ、って話だ。

 

 

運動公園に着くと、小学校高学年くらいの男子の集団がグラウンドを占領しており、サッカーは断念せざるを得なかった。正義曰く、彼らは6年生で、けっこうなヤンチャ坊主たちらしい。ヤンチャな正義が公平の後ろに身を隠すのだから余程だ。小学生とはいえ、なかなかな威力のシュートを見せ付け、何となく近寄り難い雰囲気を漂わせる。

 

「仕方ない、正子の持ってきたバドミントンにしよっか?」

「まあいいけど、2人とも、出来んの?けっこう難しいぜ」

 

ふて腐れ気味の正義に公平は苦々しい表情を浮かべたが、僕は違った。何故なら、安藤はバドミントン部の顧問であり、スパルタ的な指導を何度も受けさせられたからだ。

 

 

「スゴーイ!太一兄ちゃんってバドミントン得意なんだね」

 

チームを組んだ正子は開始から5分と経たないうちに横で歓喜の声を幾度も響かせた。運動音痴な僕でも得手というものはあるらしく、そのひとつがバドミントンだった。体育の授業の課目に無いのは残念だが、得意な競技の発見、そういう意味じゃ安藤には感謝している。まあ、優れているわけじゃなく、人並みなだけだが、相手チーム、特に漫画みたいに目玉が飛び出しそうな公平の驚愕っぷりは痛快だ。

 

「なっ?これが日頃の成果」

「悪かったよ。レクチャーしてよ」

「俺も俺も!」

 

常に「教わる」側だった僕にとって「教える」側に立つのは新鮮であり非常に心地良かった。頑なにふてぶてしい態度な正義の眼差しも今じゃ羨望と言っていいほどにキラキラしててここにいっくんが居ないのが残念でならない。洗濯や掃除、晩飯の支度…あれこれ忙しいのは分かるけど、力み過ぎているようにも見える。とはいえ、他人が口を挟む問題じゃないから黙ってるけどさ…いや、違うな。結局、怖いのだ。何か意見していっくんに嫌われるのが。近付き過ぎず離れ過ぎず、この線引きのようなものを逸脱すれば、どうにか保たれた感情の鎖が引き千切られる気がしてさ。

 

正義も正子も公平も居ない状況は本望だけど、そうならない現状がやはり1番なのだ。

 

 

疲れ知らずの正義と正子に散々バドミントンの相手をさせられ夕方近くに家に戻ると、公平が「銭湯に行こう」なんて言い出した。汗を流すという意味じゃ賛成だが、僕の口から飛び出したのは拒否反応だ。ふしだらな願望より不安が上回ったのだろう。臆病な性格でよかったかもしれない。

 

けれど、そんな不安など知る由もない正義は引き下がらず、結局は押し切られる羽目になった。断固拒否を貫けなかったのはいっくんのある意味非情な言葉のせいだ。

 

「皆で行っておいでよ。その間に夕飯の支度済ますから」

 

「いっくん、行かないの?」と先に口を開いたのは公平だった。正子が行かないとはいえ風呂まで犠牲にする必要もないだろう。だけど、いっくんの穏やかな笑みが示す頑固さは僕らも重々承知、まあ、それによって一応は不安材料を払拭出来たわけだが、魚の骨が喉に引っ掛かったような違和感が湿った風を連れて道中の僕を襲う。ホッとした反面残念。

 

そういや、銭湯で初めて会った日、キシモンに無理矢理連れて来られた、とか言ってたっけ。もし、キシモンが居たなら3人ぼっちの光景も変わっていただろうか?

 

怖がりなくせに頭の中じゃ刺激的な展開を想像してしまう。僕という人間のことを知らないのは誰より僕自身なのかもしれない。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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