長編小説「思春期白書」 67~裸体の記憶~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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(性的表現が含まれています。苦手な方はご遠慮ください)

 

 

 

 

体育祭が終われば次は中間試験。瀬川くんは保健室登校を親は承知、しかも本人も「勉強はどうだっていい」と吹聴するくらいだから、焦りも必死も見受けられないけど、僕の場合はそうもいかない。成績がズドンと下がれば教育熱心とは真逆な母さんでも反応を示さないわけがない。クリスマスのCDデッキが参考書に替わる恐れもあるし、とにかく自習に励んだ。

 

 

「ええっと、イエスタデイだろ?yest…何だっけ?ちょっと待て。yesta…違う。yesterday…これだ!これで合ってる!」

 

空き時間に教師が来てくれることもそうだが、何より衝撃的なのはコギャルの大渕千賀子が教師役を買って出たことだ。正直なところ、1人の方がいいと思う場面も多々…けれど、いっくんの言った通り、彼女は見た目や言葉遣いを除けば根の優しい人で、警戒心の塊も日を追うごとに消しゴムのカスみたいに藻屑となった。とはいえ、度を越した香水の不快さだけは拭い切れないが、大人の世界じゃありふれた匂いだろうし、嗅覚を鍛えるためと思えば許容範囲だ。

 

しかし、割り切れないものもある。真っ先に浮かぶのはいっくんの存在だ。

8時30分に保健室の扉を開けば必ず彼が居て、窓ガラスやテーブルを拭きながら「おはよう」と微笑む。瀬川くんは遅刻常習者、田村先輩も1時限目の途中辺り、保健室登校の面々は来る時間さえ自由な奴が多いってのにいっくんだけは違う。いや、普通に考えりゃいっくんが正しいのだが、瀬川くんや大渕千賀子が奔放なあまり、感覚が麻痺してしまうのだ。僕だって、ヒロや保たちと鉢合わせしないためにギリギリの時間に登校するようになった。

 

 

「そういや正義が寂しがってたよ。よかったらまた家に来てよ」

「う、うん…そうだね」

 

 

花火大会以来、正義にも正子にも会っていない。避けているのを察したようなどこか遠慮めいたいっくんの言葉に僕は思わず「来週の日曜は?」と切り出した。嫌いで避けているわけじゃ無くても、まさか恋心とは思うまい、あまりはぐらかし続けるのは繊細な彼を傷付けてしまいそうで怖かった。

 

 

「うん。正義に早速伝えよう。きっと喜ぶぞ」

 

 

…だけど、霞み掛かった横顔に浮かぶ笑みは寂しげな陰を引き連れ、僕は「藪蛇」の意味を思い知る。何となく僕らは似通った部分があった。もし、立場が逆ならきっと同じような笑みを浮かべただろう。乗り気じゃないけど波風を避けたいから「来週の日曜」と持ち出す。そんなつもりは無くても、いつだって僕の言動は裏目に出る。とはいえ、燻る想いが爆弾なのは確かだ。時限的かそれとも何らかの衝撃で爆破するのか、恐らく、両方を兼ね備えた爆弾。

 

 

例えば、兄ちゃんならアダルト雑誌、父さんならアダルトビデオ、それらの数は定期的に微増する。まあ、出て行ったきりの兄ちゃんの現状を知る術は無いが、どれだけ過激な内容であろうと、精液を出すたびに枯渇するのが性、つまり「飽きる」のだ。ひとつのもので永遠に満たされるなら新しいものを買い漁る必要は無い、それはきっと、服とか漫画とかゲームとかに対する枯渇と共通しているのだろう。

 

なぜ、このような話を持ち出したか?

 

理由は単純、夏休みに購入したBL雑誌もそろそろ枯渇の域に入ったからだ。毎日毎日お盛んな猿みたいに自慰行為に励んでりゃそれは当然の話なのだが、板橋のあの発言が未だに尾を引く状態の今、新しいBL雑誌を買い漁るなんてとてもじゃないが無理だ。それに、こんな分厚い雑誌、コロコロコミックに紛れ込ませるのも限界がある。だからといって自慰行為をやめるつもりは毛頭ない。公平やヒロがどうなのかはともかく、僕にとっては日課、もっと言えば、顔を洗うとか歯を磨くとか風呂に入るとかそういうのと同じような立ち位置なのだ。

 

(来週の日曜、いっくんの家)

 

 

別に妙な展開、それこそBL雑誌のような都合のいい展開を期待してるわけじゃない。全く無いかと問われれば返事に困るけど、公平も来るみたいだし、中間試験に向けての勉強会も兼ねてるし、大体正義や正子も居るのだ。何がどうなればそういう展開になると言うのか、キシモンとクリリンが結ばれる方がまだ現実味がある。

 

母さんが風呂に入った隙に、僕は部屋で股間に手を伸ばす。小泉今日子主演の月9は気になるが性の疼きに敵うものは何も無い。

 

頭の中に思い描くのはいっくんの裸体。初めて出会った銭湯の夜、どうしてもっと彼に目を向けなかったのか、もしかしたらタオルに隠された恥部をお目に掛かれるチャンスがあったかもしれないのに、実に破廉恥な後悔を抱きながらも、僕の股間はピクピクと唸りを上げる。ひょろっとした長身に白い肌、足は意外に太く、多少の産毛があった。もしかしたら、日々の自慰行為は彼の裸体の記憶が霞んでしまわないための役割をも担っているのかもしれない。記憶はそれだけ曖昧なのだ。

 

実際、あのときの全てを鮮明には思い出せず、抜けた部分は妄想で補う。記憶の保管庫があり、いつでも自由自在に取り出せるとしたら…

 

ドラえもんのひみつ道具を欲しがる子供のような欲望を本気で抱く僕はやはり成熟とは程遠いのだろうか?

 

妄想を重ねるうちに絶頂に達し、残されたのは虚しさと酷い罪悪感。このような行為がこれからも続くのを思えば途方に暮れるし、抜け出したいとも思う。それでも、しばらくすればまた、このような行為に耽る。

 

いっくんと再び銭湯に行くのは可能だろう。だけど、今度は確実に性を抑え切れなくなる。つまり、爆破の瞬間だ。畳にゴロンと横たわりながら僕はもどかしさ…ジレンマってやつかな、それに息を詰まらせた。

 

性だけが暴走の一途を辿る。せめて毛でも生えりゃ多少は受け入れられるかもしれないのに、どうしてこんなにもアンバランスな僕なんだろう?

 

 

(続く)

 

 

 

 

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