長編小説「思春期白書」 50~始業式の異変~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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(性的表現が含まれています。苦手な方はご遠慮ください)

 

 

 

蝉の寿命な速さで残りの夏休みはあっという間に過ぎ去った。異様な長さがそういう体感を生み出すのかもしれない。

例えば、学校からの帰宅も早く家に着きたいと思えば、距離はやけに遠く感じ、逆になるべく遅く着きたい(通知表を見せなきゃならないときとか)と思えば近い。夏休みも結局は途方もない長さという印象が体感的な短さを醸し出すのだろう。自らによる錯覚、蜃気楼みたいなものだ。

 

 

「ういっす!全然焼けてないなあ。どうせ家でぐうたらぐうたらしてたんだろ?」

 

トーストみたいに日焼けした倉林に顔をしかめ、「焼けない体質」と返すと、僕は始業式前の教室を見渡す。真っ黒、小麦色、若干のまだら…それぞれに差はあっても殆どの奴が焼けており、本来の色を保持するのは根暗な陰ばかり。「体質」に責任転嫁はいささか説得力に欠ける。

 

けど、日焼けより際立つのは変貌ぶりだ。何か詰めてるのかと思うほど胸の膨らんだ女子がちらほら、背が伸び早くも変声期に差し掛かる男子も数人、倉林の場合、身体的な変化は見受けられないけど、綺麗にまとまった長めの髪は明らかに色気づいたせいだ。ついこないだまでは寝癖さえロクに直さず登校してたくせに…

 

「皆、雰囲気違うよね」

 

同じように赤みがかった肌の大西に頷くと、体内の振動は激しさを増した。別に色気づく倉林も、胸の膨らみもどうだっていい、僕を揺さぶるのは…

 

「ういーっす!」

 

待ち侘びた真打ちの登場にクラス中の空気は一変する。花火大会のときはあまり感じなかったが、そこそこに背は伸び、身体つきも若干の逞しさを帯びたヒロに、最初は沈黙、かと思えば次の瞬間、示し合わせたかのように飛び交う「ういっす!」や「久しぶりー!」の嵐…新手の新興宗教みたいな何とも異様な光景だ。まあ、ヒロを毛嫌いする倉林に板橋を筆頭にした不良グループの場合は違うが。

 

だらだら時間が無駄に過ぎるだけの始業式が終わり、教室に戻る途中、ユリちゃんが背後からツンツンと肩を叩いた。彼女に至っては特に変貌は見受けられない。相変わらず胸は小さ…これ以上はやめておこう。僕だって未だに気が生える兆しは一向に無い。

 

「花火大会の写真渡すから放課後、図書室に来てくれない?」

「あ…うん」

 

彼女への想いが自らを「普通」にさせるためのまやかしだったとしたら…そう思うと後ろめたさが込み上げる。だから花火大会のときもあまり会話しなかったけど、避けてるように捉えられたくない身勝手さが僕の口を滑らせた。

 

「あの…良かったらまたカラオケ…どうかな?」

「うん。じゃあ皆にも声掛けてみるね!」

 

「桑原抜きで」という間もなく、ユリちゃんは制服の群れへ消えて行った。ずっとカバンに忍ばせたままのプリクラ手帳はカラオケ、それから映画+アニメイトの日以来、余白を保っている。あのときの熱は微かに残るが、違う熱が遥かに勝り、体内はハンバーグのタネみたいにぐちゃぐちゃだ。いっくんへの熱、BL雑誌への熱、それから、ヒロへの熱。雲の上の存在になろうと、結局、熱は冷め切らない。ただの性の疼きだとしても熱である事に違いなど無いのだ。

 

…ただ、熱はそれだけにとどまらない。

 

 

「いつまでも夏休み気分でいないように!気を引き締めて2学期を励むこと!!」

 

鬼婆の八つ当たり的な怒号が飛ぶと、終了のチャイムが鳴った。別に怒られる要素は無いが、予め用意していた台詞なのだろう。教師は聖人君子じゃない。私的な苛立ちをたまにぶつけることもあるって僕らは見抜いてる。

 

「太一、図書室行くんでしょ?僕もついてっていい?」

「うん、もちろん」

 

一応、断っておくけど、僕は別に浮気性な性分じゃない。例え、友達の間柄でもこのくらいの年齢なら多少は意識するものだ。厄介なのは「普通」は男女間に起きるものが、僕の場合は同性間に起きるということ、ある程度の距離を置ける男女とは違い、男同士なら距離など置けない。だから、公平にとっちゃ深い意味の無い「お泊まり」も、断るしか無かった。ひとつのベッドに入れば…衝動を抑え切れるか分からない。BL雑誌が性の解放に役立つのは確かだけど、性の追求に拍車を掛けたのも確か。

 

キスってどんな感覚なんだろう?

 

抱き合うってどんな心地なんだろう?

 

セックスってどんな気分なんだろう?

 

そういう類は雑誌はもちろん、アダルトビデオだってきっと答えを教えてくれない。空想だけで悶々とする僕だ。恋愛感情を抜きにしても、誰かとひとつのベッドに入り、体温が伝えば…

 

 

「何ボーっとしてんの?早く行くわよ」

 

真夜中のテレビの砂嵐みたいな桑原のノイズが耳を劈くと、教室は既にもぬけの殻だった。ついさっきまでの騒々しい光景が嘘のようだ。ヒロのギター練習の話に周囲が盛り上がり…って、過ぎ去ったことはもういいか。

 

「ほら、行くわよ」

「わーってるよ」

 

苦笑しか無い公平を伴い、教室を後にすると、廊下の突き当りにヤンキー座りで談笑中の板橋たちの姿があった。こちらに気付き、ニヤニヤ不気味な視線が向く、下手に関われば何に巻き込まれるか…咄嗟に視線を逸らし、桑原の背中を追い掛けた。しかし、彼らの視線は職員室を通り過ぎるまで逃がしてはくれなかった。背後から突き刺さる刺々しい嘲笑。まあ、桑原との噂はずっと消えないままだし、直接的に何かされるわけじゃないからいいけどさ。だからそれ以上気に留めることは無かった。奴らに構うほど暇ってわけでも無いし。

 

けど、彼らの視線の意味は、全く違うところにあった。彼らが新たに立てた噂。それを知るのはもう少し後のことだった。

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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