長編小説「思春期白書」 49~花火が終わる前に~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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ドーン!バァッ!!

 

車が正面衝突したような耳障りとともに薄暗い空に花火が咲く。周囲の歓喜に乗せて2発、3発、同じリズムから変則的になり、色とりどりの花火たちは咲き誇り、潔く散る。僅かな火花に一抹の寂しさを潜めながら。

 

「「たーまやー」」

 

正義と正子が声を揃えると、女性陣も後に続く。僕の声など邪魔でしかない。ただ眺めるだけの卑屈さはヒロとの遭遇のせいじゃない。性分だ…多分。

 

「正子、肩車してやろうか?」

「結構よ。キシモンは狼だから気を付けなさい、ってお姉ちゃんたちが言ってたもん」

「おいおい、変なこと吹き込むなよー。俺はジェントルマンだっての」

 

いっくんの背後から舌を出す正子にエロモンの遠吠えが響く。いい気味だ。どうせ肩車だって「子供に優しい俺」をアピールするためだろう。稚拙な作戦をどれだけ立てようと自由だが、若い女の集団の煙たそうな視線が向くのは勘弁してほしい。

 

咲く場所が微妙に違う花火の群が幻想的な雰囲気を存分に発揮する頃、ふと隣に目を向けると、人の波を掻き分ける公平の背中が見えた。ヒロたちと遭遇した直後に正義が駆け寄って来たため、結局2人で話す時間は無かった。それを思うと、僕は咄嗟に彼の背中を追い掛けた。メインとも言える瞬間にも関わらず、足早に俯き加減、追う理由としちゃ充分だ。

 

 

「公平…」

「あ、太一。どしたの?」

 

公衆トイレに入ろうとする公平を呼び止めると、心配が損だったように不思議そうな顔を浮かべた。とはいえ、もっとトイレならもっと近くにあるのに、ここは境内からかなり離れた不気味な暗さを醸し出す場所、奥には森林が広がり、肝試しに使う物好きも居るが、それ以外は近寄りもしない。建物が視界を遮り花火も見辛いしさ。だから、単に小便が我慢出来ないだけの理由じゃなさそうだ。

 

「トイレなら向こうにあるじゃん」

「混んでたからさ…って、見え透いた嘘かな?」

 

肩をすくめる公平に軽く頷き、僕らはとりあえずトイレに入った。実際、向こうのトイレが混み合うのは事実だし、何より公平と2人きりというシチュエーションはこのところ無かった。いっくんの家に集うのが恒例化していたのだ。

 

「僕さ、別に花火とか興味ないんだ」

「…そっか」

 

アンモニア臭漂う小便器に並ぶと、公平は独り言みたいに呟いた。少しは驚きのリアクションを見せるべきかもしれない。けれど、そういう気になれなかったのは、僕も内心、同じ想いを抱くせいだ。誰も誘わなければ、来なかった、似た者同士。

 

「自由研究はどう?捗ってる?」

「うん、まあ、一応…」

「最終日に泣き付いても手伝わないからね」

「分かってるよ」

 

ヒロは何を研究してるんだろう?まあ、彼なら、1週間の天気と気温をまとめただけでももてはやされるかもしれない。棲む世界が違う。さっきの偶然に…思い知った。

 

「なあ、久々に公平の家、行ってもいい?」

 

何気ない言葉に、返ってきたのは難色を示す態度。お盆休みに家族旅行、それもオーストラリアへ行くらしい。以前、アメリカへ行ったときの写真を見せてもらったから嘘ではないだろう。海外どころか、国内旅行さえ行ったことのない僕からすりゃ、コイツもまた、棲む世界が違う。意味合いはヒロと異なるけど。

 

「最後の週なら大丈夫だよ。良かったら泊まりに来る?」

「えっ!?」

 

爪の間まで丁寧に手を洗いながら発せられた意外な言葉に、思わず声が裏返った。「そんなに驚かなくても…」と言うが、「泊まり」の誘いなど受けたことの無い僕だ、大袈裟に映るリアクションは仕方ない。

 

「母さんに聞いてみないと…」

「うん。いい返事を待ってる」

 

何度か風呂も入った仲とはいえ、胸はまた思い出したかのように騒めく、空想の中じゃ、笑い掛けるのは僕だったハズなのに、これじゃ全く逆だ。いつだってそう、僕という人間は常に守られ、守ることを知らない。その怠惰はもがけばもがくほど電源コードみたいに絡まって、結局は絡まりさえ誰かに解いてもらって…

 

「花火が終わる前に戻らなきゃ。あの人だかりを探すのは大変だし」

 

確かに。終わってしまえば遊牧民のような大移動が始まる。結局、公平がどうしてここにやって来たのかさえ聞けないまま、僕は彼の背中を再び追い掛けるしかなかった。

 

この出来事が後に災厄として降り掛かることなど、もちろん予想だにせず、賑やかしさが響く頃、僕は銀河の流れる空を見上げた。心の中、「たーまやー」と、叫びながら…

 

 

(続く)

 

 

 

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