長編小説「思春期白書」 47~儀式的絶頂~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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前回の話はこちら

 

48話はこちらから

 

 

(性的表現含まれています。苦手な方はご遠慮ください)

 

 

 

下世話なワイドショーの企画にイニシャルトークがある。若手俳優のSと演技派女優のKが付き合っているとか、大御所タレントのHが離婚協議中とか、他人のプライバシーに土足で踏み込む様も、あれこれ予想を立て勝手に盛り上がるコメンテーター気取りのタレントも実に不快だ。井戸端会議の主婦以下のコメントしか出来ないくせにギャラまで貰えるとは、恐ろしいくらいだ。

 

とはいえ、僕だって全く興味が無いと言えば嘘になる。特にアイドルの熱愛発覚なんかが発覚した日は、学校中がその日の話題の殆どを占めるし、それは図書室メンバーも同じだ。

 

けど、地方ローカルのワイドショーで歌舞伎役者かと思うほど白塗りの中年女芸能レポーターが発した言葉が僕の嫌悪感を募らせた。

 

「大御所俳優のYさんは男色家で有名ですよね。若い男性と手を繋いで新宿二丁目を歩く姿が度々目撃されています」

 

スタジオのタレントたちの耳打ちや「えー!信じられなーい!」などの驚愕の裏に見える嘲笑的な表情、被害妄想と言われりゃそうかもしれない。それでも、「仮にそうだったとして何が悪いのか?」という憤りは僕の嫌悪…いや、憎悪を引き出した。

 

もちろん、そういう類の噂は様々な方面から聞こえてくるし今に始まったことじゃない。けど、僕がようやく自覚し始めた頃だ。神経は過敏になる。クリリンの言葉も大概ショックだったが、公共の電波、それも大の大人が揃いも揃って見せる嘲笑に、僕の柔な胸はアイスピックで抉られるような痛みを覚えた。憎悪の先に在るのは現実という絶望、脳裏に過ぎったいっくんを必死で掻き消す。彼の嘲笑だけはどうしてもイメージしたくなかった。

 

ワイドショーだけじゃない。バラエティのニューハーフにしても、ドラマの同性愛設定も、大概は嘲笑か気持ち悪がられるか否定される存在だ。悪しき者のように大人たちの露骨な差別が刷り込まれてきた子供たち、むしろ、差別するなという方が無理だと思う。僕も、自分がそうじゃなければ、する側に立っていただろうから。

 

 

「そっか。もちろん構わないよ、自由研究としてまとめなきゃいけないもんね」

「すみません…」

 

花火大会の前日、料理教室はもういい、と、いっくんに電話で告げた。

 

「家の事を色々やらなきゃいけない」などという見え透いた嘘に対しても、電話越しのいっくんの口調は怖いくらいに穏やかで、雨漏りみたいな罪悪感が胸に落下する。自由研究としてまとめる期間を考慮すりゃ、どうせあと1,2回が限度。彼のフォローをそのまま盾にするのは卑怯だ。それでも屋根裏の修繕のために自らに言い聞かせた。世間が悪しき者と位置付けるなら、今更、卑怯に躊躇う必要も無い。

 

電話を切った直後、朱色の空に居座る綿雲を眺めながら自転車を走らせた。目的は同じでもこないだみたいに「シーソーゲーム」は流れず、多分、もう2度と流れないだろうと思った。向かい風だけが静かに響き、ビニールプールではしゃぐ子供の声はただの雑音。心なしかペダルを漕ぐ勢いさえ衰えた気がする。

 

あの本屋に向かうのは時間帯的に無理がある。だから僕は、知ってる範囲の中から1番遠い本屋をチョイスした。知った奴が居たり、女子中高生がBL雑誌コーナーを占拠してたり、BL雑誌自体が置かれていない場合を考え、他の本屋も2つほど目星を付けている。

 

どちらかといえば衝動的だし、我ながら大胆な行動だが、これは昨夜に立てた荒療法だ。いっくんから遠ざかっても、明日の花火大会を含め、全く関わりを断つことはもう出来ない。それに夏休みが終われば、ヒロとの日常が再開され、水泳授業も待ち受けている。性の疼きを少しでも抑えるには発散の機会を増やすべき、馬鹿な僕が馬鹿なりに考えて出した結論だ。これが駄目なら打つ手は無い。

 

 

読み手の方達の多くは、愚弄と称すかもしれない。けれど、12歳の男子が考えることなど殆どが愚弄だ。このときの僕はとにかく、逃げ場所が欲しかった。人とあまり関わらない生活が送れるなら越したことはないけど、中学生の僕じゃそれは不可能。なら、こういう手段を取るしか無いじゃないか。誰にも言えない悪しき性を隠し通すためには。

 

 

幸い、1軒目の本屋が購入のための条件を満たしており、僕は来月に買う予定だったゲームソフト代を2冊の雑誌に充てた。ひとつは漫画雑誌、もうひとつは半分以上が小説の雑誌。フォレストガンプをようやく読み終えたばかりだというのに、どうやら活字に惹かれるようになったらしい。

 

実際、その判断は正しかった。漫画じゃサラッと流される光景が細かに丁寧に描かれ、特に絡みのシーンはより卑猥さ…官能的と言うべきだろうか?とにかく、頭の中に展開されるイメージは体温にさえ影響を及ぼした。挿入から射精に至るプロセスは理解の範疇を越えていたけど、小さな文字を追う僕の必死は中毒症状の類かもしれない。

 

「太一、まだ起きてるの?早く寝なさい」

「わーってるよ!」

 

ドアの擦り減りから微かに漏れる灯りに母さんは敏感だ。灯りを消し、11時台のニュース番組にチャンネルを合わせると、僕はその光を頼りに続きを読み耽った。兄ちゃんには悪いけど、この自由な空間をもう手放すことは出来ない。この空間は既に僕の日常なのだ。日常を明け渡すことなど無理に決まってる。

 

どうせ、花火大会は夜。高を括り、薄暗さの中、今日2度目の自慰行為を行う。終えた後の何とも虚しい時間など微々たるものだが、それでも、疼きに効果的なら僕はその儀式を何度だって繰り返す。

 

脳裏に淫らな…いっくんやヒロが過ぎろうとも、左手が躊躇うことは無い。ただの妄想だ。誰かを殺したいと思っても実際には殺さないのと同じだ。極端な例えを翳し、僕はティッシュの内側に果てた。途端に訪れる睡魔は明日への安堵だ。サスペンスドラマの犯人みたいに痕跡を消すと、扇風機の重たい羽音だけが響く部屋の中、眠りへと堕ちた。蒸し暑さも敵わない疲労感に苛まれながら…

 

 

(続く)

 

 

 

 

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