長編小説「思春期白書」 32~リュウになれたら…~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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前回の話はこちら

 

33話はこちらから

 

 

 

嫌な偶然が重なれば、それは必然に思え、茜の空を見上げながら、信じてもいない神様を恨む。一体、僕が何をしたというのか?もしかしたら僕の前世はとんでもない大悪党だったのかもしれない。けど、例えそうであっても…

 

「お前ん家、相変わらずだなー。この絵画とか、すげー高いんだろ?」

 

久々の再開がそれほど嬉しいのか、大浴場を出た途端、公平は2人を自宅に誘った。いっくん先輩が発した「さすがに迷惑…」はキシモン先輩の「行く行く!」に見事に掻き消され、憂鬱が加わった僕の脳内はミキサーに掛けられたようにぐちゃぐちゃだ。悪い人には見えないが、今の僕からすればこの図々しさは罪である。野球部の3年、引退試合を控えてるんだから、サボってないで部活に行きゃいいのに。

 

「どうせ俺は補欠だしな。それよりゲームとかねえの?格闘モノやろうぜー」

「スト2だったらあるけど」

「おー!充分充分。お前らよわそーだしな、手加減してやっから」

「甘く見ない方がいいと思うよ」

 

意気揚々とスーパーファミコンをセットする公平に苛立ちを覚えながら、僕はいっくん先輩と共に、2人の熱気を暑苦しいくらいに背後から味わう。こりゃ、完全に2人の世界だ。ロールプレイング専門の僕じゃ付いていけないし、薄く笑ういっくん先輩も同じように居心地の悪さを感じているのだろう。正座したまま一向に崩さない様子がそれを物語る。

 

意外に強い公平の意地悪な笑いとキシモン先輩の絶叫が飛び交う中、僕といっくん先輩は遭難者のように会話を交わし始めた。「太一といっくんもやろうよー」と、公平は何度も呼び掛けるが、下手くそな上に手加減される惨めさを思えば、断る以外に無い。こういうところは気が回らないんだな、と辟易したが、これもまた、公平の本来の姿だとも思う。小さい頃からの兄ちゃん的存在が相手だ、無邪気な弟の顔になるのはむしろ自然だろう。

 

それに…

 

「気を遣わないで「いっくん」でいいよ。敬語はどうもむず痒くなるからね」

 

良いか悪いかは判断に困るけど、いっくんと会話出来る「今」を導いた2人に僕は内心、感謝した。完全無防備な銭湯に比べりゃ騒めきも多少はマシだし、仮に勃起したなら何かで誤魔化せばいい。とにかく僕はいっくんを知りたいのだ。

 

「部活?特に何もやってない。運動は苦手だし、芸術もあんまり…料理部は興味あるけど女子ばっかに加わる勇気も無いからね」

「料理が好きなんすか?」

「母さんが料理しない人だし、弟や妹にカップ麵ばかり食べさせるわけにもいかないからね」

 

あっという間に掻き消される囁きに似た声はキシモン先輩より低く、穏やかな優しい色合いがした。特に、落ち着き払った感じは深夜のラジオを聞いているような錯覚さえ抱く。なら、キシモン先輩の汚い声は毎晩毎晩近くを駆け回るバイクの爆音ってとこか。まあ、無音の2人きりの状態じゃ緊張感丸出しだっただろうし、雑音が必ずしも悪いわけじゃない。

 

「弟たちが心配だし、僕はこの辺で」

 

時計の針が5時を刻んだのとほぼ同時に、いっくんは申し訳なさそうに頭を掻いた。キシモン先輩なら強引に引き留めるはず、期待を込めてそんな予想を立ててみたけど、実際は違った。

 

「そっか。アイツらに「また遊ぼうぜ」って伝えといてくれ」

「近いうちにいっくんの家にも行くね」

 

(…どうして肝心な場面だけあっさりしてんだよ。嘘でもいいから少しくらい引き留めたらどうなんだ?)

 

コントローラーを握ったまま振り返る2人に、僕は猛烈な怒りを覚えた。そりゃ、いっくんの事情をよく知ってるからってのは想像するまでもない。けど、ヒロより制服の白いシャツが似合う爽やかさに、大人びた落ち着き、それに加え、少し影のあるクールさを兼ね備えたいっくんに、僕の騒めきは破裂しそうなほど悶えた。もちろん、表には出せるはずも無いけど、胸中のときめきが衝動を煽る。背中を向けたいっくんの手を掴みたい、ってさ。

 

だけど、その勇気も資格も僕には無い。衝動が行動に至らなかったのはユリちゃんが脳裏に浮かんだからだろう。ようやく、女性に恋をしたというのに、これじゃ自爆行為だ。

 

バタンとドアが閉まり、いっくんのクシャっとした笑顔が消え去ると、僕は混乱を隠すように2人に対戦を持ち掛けた。

 

ヒロ、ユリちゃん、いっくん…僕は誰に恋をしているのだろう?或いは、どれも恋とは違うものなのだろうか?

 

「初心者だからって手加減しねーぞ」

「望むところっす」

 

鉢巻きに白い道着のリュウを見据え、野太い声を放つ。リュウのように強くなれればこの程度の混乱など吹き飛ぶ。そんな願いを込めたのかもしれない。もしくは、自暴自棄。

 

どちらにせよ、今の僕にはスト2が必要だった。混乱を吹き飛ばすには集中を注げるスト2が打って付けだ。

 

僅かな時間であっても、その場しのぎであっても…波動拳さえ上手く出せなくても。

 

 

(続く)

 

 

 

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