長編小説「思春期白書」 30~こじらせた風邪~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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公平先生の教えの甲斐あり、期末試験の終了日、僕は疲労困憊を極めながらも、それなりの手応えに満足も感じていた。まあ、秀才の公平先生や桑原の足元には到底及ばないだろうけど、平均点を少し上回る感じはする。惨敗な結果に終わった中間試験を思えば、充分な進歩だ。

 

「ふうぅ。終わったー。ようやく部活に打ち込めるな」

「ずっと座りっぱなしだったし身体がなまってるかも」

 

保や倉林の会話はいかにも青春を謳歌してますみたいな目映さがあり、似た反応を見せる他の面々を重ねりゃ、コイツらも光の住人に思えた。部活に否定的な僕でさえ羨ましく映るのは「打ち込めるものがある」それに尽きるのだろう。何も無い人間は黙って指を咥えるしかないのか?

 

「お疲れ。何か自信に満ちた顔だね」

「それは公平だろ?ホントに疲れた」

「夕方には癒えるさ。用意は万端?」

「うん。着替えとかは持ってきてる」

 

それぞれが午後からの部活に繰り出す頃、僕はいつもより膨らんだカバンを軽く叩き、頷いた。家には戻らず、公平の家で昼食をご馳走になり、夕方は約束の銭湯だ。一応、大西も誘ってみたが、やはり恥ずかしさがあるのか、もう教室には居ない。試験の緊張感は糸が切れたとはいえ、誰もが手応えを感じているわけじゃない。だから僕らも早々に教室を出た。安堵、不安、恐怖…様々な溜息が充満した空間に留まる理由も無い。

 

校舎を出る前に図書室に寄ると、鍵が掛かっており、人の気配は全く無かった。既に帰ったのか、違う場所で弁当でも食ってるのか、どちらにせよ、ユリちゃんの「お疲れ様」が聞けないのは残念だ。とはいえ、公平を連れて探し回るのもどうかと思い、僕はカバンの中のプリクラ手帳に輝く彼女を想像しながら下駄箱へ向かった。

 

「帰ったら答え合わせしよう。大体の点数が分かる」

「マジ?別にしなくてよくない?月曜になりゃ大体じゃなくてちゃんとした点数が分かるんだし」

「そんなに時間取らせないって。そうそう、昼食は冷やし中華用意してるから」

 

ということは夕食も用意してあるってことか。もし、僕が毎日公平の家に押し掛けたら母親はどうするのだろう?そんな意地悪な疑問を抱き、校門を抜けると、ローソンの袋を右手に持つユリちゃんと桑原に鉢合わせた。予期せぬ偶然に、ビビりの僕の心拍数が上がる。もちろん、嬉しい偶然なのだけど、突発的な出来事が起きると、脳内がパニックを引き起こすのだ。

 

「あー!佐藤っち、偶然だね」

「てっきり帰ったかと思ったんだけど、それ、昼食?」

「うん。美術部の友達に差し入れ」

 

パンやらコーヒー牛乳やらが詰まった袋を掲げ、ユリちゃんは今日も華奢な微笑みを見せた。ムスっとした表情の桑原とは大違い…というより、出来れば視界からいなくなってもらいたいものだ。ユリちゃんと肩を並べるなんて100万年早い。

 

「じゃ、この辺で」

「それでは失礼いたします」

「うん。2人ともまたね」

 

前に軽く紹介したにも関わらず、公平は背筋をピンと伸ばし、深々とユリちゃんに頭を下げた。そりゃ、本来はそういうものなんだろうけど、硬い表情や上ずった声はあまりにぎこちない。だけど、僕は内心、ほくそ笑んでいた。女子に対する免疫は公平より上だと。最低だって思うけど、何も勝るものが無い人間の屈折が引き起こすにはありふれた症状だ。少しくらい優位に立ったっていいじゃないか。

 

「太一みたいにはなれないな。どうしても緊張しちゃって…」

「僕も最初はそうだった。けど、次第に慣れてくるよ」

「そっかな。まあ、桑原よりは話し易いかも。優しいし、可愛らしいし」

「桑原なんかと比べるなって。失礼だ」

 

別に付き合ってるわけでもないのに、誇らしげな態度。そんな自分に辟易しながらも、ユリちゃんへの想いは日を重ねるごとに高まっていく。性的の一切は相変わらず微塵も無いけど、性に傾かないこの高揚こそが純粋な恋だと思った。性と恋が必ずしも寄り添うとは限らない。そもそも、僕は12歳。毛さえ生えてない未熟な12歳なのだ。性を知るにはまだ早い。自慰行為や兄ちゃんの部屋のエロ本探しを棚に上げ、僕は自らを諭した。いまだにヒロがオカズなのも棚に上げて。

 

「暑いね。先に軽くシャワー浴びる?」

「大丈夫。そんなに汗掻いてないし」

 

銭湯と言えば、おっさんかおじいさん、風呂なしアパート住まいの大学生。テレビドラマの銭湯シーンを脳裏に浮かべ、シミュレーションしてみるが、このときの僕はもう、不安要素など無かった。男への興味は一時的なものに過ぎない。ユリちゃんへの恋心が更に加速すれば興味も次第に薄れる。そんな能天気な考えを本気で信じていたからだ。

 

どれだけこじらせた風邪も、ウイルスは確実に死滅へ向かう。

それと同じようなものだと。

 

だけど、僕を待ち受ける現実は既に深い落とし穴を仕掛けていた。これが嵐の前の静けさだったってことを、やがての僕は絶望のどん底の中に思い知る。

 

 

(続く)

 

 

 

 

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