長編小説「思春期白書」 29~カテゴライズ~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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期末試験まで数日しか無いというのに、呑気に大富豪なんかやってていいものか?特に、ユリちゃん、クリリン、田村先輩の場合は受験生なわけだし、その疑問は沸騰寸前、しかし、桑原曰く、3人とも秀才、心配の必要は無いとのこと。むしろ、彼女の心配は僕の方らしい。

 

「普段から真面目に勉強しとけば試験前に焦ることも無いのよ。試験前の僅かな猶予に無理矢理詰め込んだって本当に身に付いたことにはならないわ」

 

…確かにそうだけどさ、二次方程式が身に付いたってそれが何の役に立つんだ?公平みたいに知識を得ることが好きな奴など何よりの少数派、大概は勉強に鬱々しか抱かない。その点は光も影も関係無いのだろう。部活動が休みになり、教室の雰囲気は割と静か、あの板橋でさえ、口にするのは試験に関する内容ばかり。本当に身に付くかどうかはどうでもいい、目先の試験をいかに乗り越えるか、それだけで皆、精一杯なのだ。

 

「はい、革命」

「うそぉ。もうヤダー」

 

大富豪中の瀬川くんは実に容赦ない。正確に言えば、カードの引きがいい。彼の元にはジョーカーを始め、1や2がこぞって集まり、同じ数字が4枚もザラだ。革命を起こすたびに、誰かが悲鳴を上げ、それを見ながら彼はいたずらっ子のようにケラケラ笑う。もしかしたら桑原よりS要素の強い奴かもしれない。

 

図書室に来るのが日課になり、瀬川くんとの距離は割と縮んだ。とはいえ、話す内容は主に歌やテレビ番組ばかりで、後は弟が居る、とか、休日はゲーム三昧、とか、知り得た情報は薄い。勉強やクラスの話を振れば露骨に嫌な顔をするため、自ずと話題は限られるからだ。公平についても「小学校が同じだった」以上の話は聞かせてくれないし、そればかりか、話題はすぐに切り替えられる有り様。そういった謎めきが時に不安を掻き立てたりもするが、相変わらずのテンションの高さはそんなことはどうだっていいように錯覚させる。まあ、実際、詮索嫌いな僕からすりゃ、どうだっていいんだけど。

 

ただ、「フランダースの犬」を頑なに拒むのは何とかしたい。彼の言い分は「映画に興味ない」とのことだが、様子を見る限り、理由は違う気がする。

 

「ちょっと、ジョーカー2枚持ってるなんてイカサマしてんじゃないの?」

「するわけないし」

 

もちろん、桑原の言い掛かりは本気じゃなく冗談めいたものだ。しかし、瀬川くんは彼女に目をやることもなく、呟くだけ。明らかに他のメンバーへの態度とは異なる。例えば、僕らが同じ言い掛かりを付ければ「へへへ。実はね」とか「ジョーカーに好かれてる」とか「大貧民のひがみ」とか嘲笑的な態度で、冷たくスルーすることは無い。最初は気のせいかとも思ったけど、ここに来る中、何かにつけ桑原とそれ以外に対する態度は明らかに違う。

 

「瀬川くんはそういうとこはっきりしてるから。私たちも何とか仲良くなるようにとは思ってるんだけど…」

 

ユリちゃんも気には留めつつも、周囲が出来る限界を感じているようだ。人が集えば、合う合わない、好き嫌い、それは当然にあること。両者にいさかいがあるならともかく、フィーリングの問題ならば尚更、周囲の出る幕は無い。しかし、瀬川くんの子供じみた露骨な態度は波風が立たないような振舞いばかりする僕からすれば、呆れつつも羨ましいとも思ってしまう。

 

「今度、ゲーセン行かない?」

「ゲーセン?」

 

巻き込まれた、と言えば、彼も心外かもしれないが、教室へ戻る時間は最近じゃ瀬川くんに埋め付くされてる。2,3歩前を行く桑原の背中は颯爽としつつも、不協和音の板挟みにされるのはたまったもんじゃない。

 

「いいけど、夏休みに入ってからでいい?」

「うん!決まり!」

 

実のところ、僕はゲーセンが嫌いだ。アーケードゲームに滅法弱いってのもあるけど、何よりあの耳を劈く騒音が不快、日曜の朝の選挙カーといい勝負である。それでもオッケーを出したのは瀬川くんの普段を知りたい好奇心、そして、夏休みの予定を1日でも埋めたい切望のせいだ。

 

公平も誘う?と、言おうとして留まった。前に公平が彼の名前を呼んだときのあの冷たい視線、よくよく思い出せば、桑原に向けられるそれと同じ類だ。彼の好き嫌いの判断基準は分からないけど、もしかしたらいずれは僕もそっちにカテゴライズされるんじゃないか?そんなことを考えたら…鳥肌が立つ。

 

図書室も結局は安息の地じゃない。UFOキャッチャーの得意さを上機嫌にアピールする瀬川くんの横顔を眺めながら、僕は新たな不安の種に頭を抱えた。不安のある方が健全だとしても、簡単に割り切れやしないのだ。換気扇にこびり付く油汚れみたいにタチが悪い。

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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