長編小説「思春期白書」 28~秘密のプリクラ手帳~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「はい、佐藤っちの分」

「あ、ありがとうございます」

「タメ口でいいよー疲れるでしょ?」

 

白いポシェットから手帳みたいなのを取り出し、ユリちゃんは自慢げに中を開いた。そこには様々なサイズのプリクラが所狭しと貼られており、僕は初めてプリクラ手帳なるものの存在を知った。まあ、プリクラ自体、初めての経験なんだから当然だけど。

 

「あっ、クリリン。田村先輩も」

「普段からよく遊ぶの。こないだも○○街のアニメイトに行ったし」

「ま、佐藤っちにはまだ早いわね」

「うるっせーな」

 

小姑みたいな桑原の横やりにしかめながらも、3人で撮ったプリクラはどこか感慨深いものがあり、西友のゲームコーナーを出た瞬間、僕は「手帳が欲しい」と2人を雑貨コーナーに誘った。桑原は「男のくせに…」的な呆れ顔だが、ユリちゃんは違う。数ある種類の中から率先的に選んでくれたし、「違う機械で撮ろう」とも言ってくれた。見た目は幼くても2歳の差は大きい。このドS女じゃ足もとにも及ばないってもんだ。

 

しかし、桑原の指摘はあながち間違いじゃない。○○街といえば県内では断トツトップの繁華街であり、大丸だの高島屋だの幾つものデパートが軒を連ねる場所。その煌びやかな世界は噂には聞くも、一度も行ったことが無かった。そもそも、地元の以外の街など、せいぜい映画館のある2つ先の駅くらい。小5まではドラえもんの映画見たさに母親に連れてってもらったが、今は昔、保護者を除けば最年長とかさすがに恥ずかしくなり卒業した。以来、地元から出たことのない僕じゃ、電車を2回乗り換えなきゃならない○○街など、遠い異世界、確かに「まだ早い」のだろう。

 

…それに、行く理由も無い。服の一切は西友の我が家じゃデパートなどという高貴な場所は縁も無く、アニメイトは少し興味があっても、電車賃を上回るほどではない。

 

 

「そうそう。実はね、こんなものを貰ったんだけど…」

 

マクドナルドの奥の席を陣取るなり、ユリちゃんはポシェットから乱雑に数枚の紙切れを取り出した。映画の招待券だ。

 

「○○街の映画館じゃなきゃ使えないんだけど、よかったらどうかな?」

 

フランダースの犬?ああ、そういえば、リメイク版の公開がどうとかめざましテレビでやってたっけ。おおよその筋書きは知ってるし、特に興味も持てないけど、ユリちゃん効果だろうか、僕は桑原より先に「行きたい」と口走った。

 

「本当?よかった。クリリンたちは明日誘おうと思ってるの。瀬川くんもね」

「私も行く。観たかったの」

 

本当かよ?桑原には「極道の妻たち」か「ミナミの帝王」がお似合いだ。

 

「瀬川くんには佐藤っちが誘ってみてくれない?男子同士の方がいい気がするから」

「了解っす」

「彼が来なかったらまた男1人になるんだから頑張んなさいよ」

「分かってるよ」

 

フライドポテトを貪りながら桑原を睨むと、僕はふと、この状況下の歪さに気付いた。いや、男1人だからどうというわけじゃなく、もし、誰かクラスの奴とかに目撃されたら、また変な噂を立てられるかもしれない。そりゃ、桑原と行動することによって男への興味をカムフラージュ出来れば…その思惑に変わりは無いが、あまり噂が立つのも面倒そうだ。しかも、ユリちゃんも一緒なら噂の内容も芸能スキャンダル並みに尾ひれを付けるかも…女子なら宮田、男子なら板橋が要注意人物ってとこか。

 

恐る恐る店内を見渡したところ、それなりに混み合うものの、家族連れやら高校生、大学生風の集団、知った姿はどこにも無かった。駅の近くのマクドナルドはここだけ、それを考えりゃ油断禁物だが、ビクビクするのも情けない。

しかし、情けなさは性分だと、普段なら開き直りを見せるが、敢えて堂々とした態度を決めたのは、ユリちゃんの前だからだ。僕の性分じゃなく、男の性分。見栄やプライドの類。

 

 

帰宅後、早速○○街行きを伝えると、母さんは「大丈夫なの?迷子になったら大変よ」などと怪訝そうな顔を見せた。こういうのを過保護というのか?

 

「子供じゃあるまいし、迷子になんてなるかよ」

「まあ、お友達と一緒なら大丈夫ね。けど、勉強を疎かにしちゃダメよ」

 

どうせ行くのは夏休みに入った直後だ、心配には及ばない。子供扱いに口を尖らせながらも、僕の熱が冷めることは無かった。夏休みの予定が1つ埋まったわけだし、光の方々御用達の○○街に行ける、しかも、ユリちゃんと。あのドS女も来るのかと思えば溜息も漏れるが、まあ、僕とユリちゃんの出会いのきっかけはドS女なわけだし、ここは寛大な心で感謝してやろう。

 

その日の夜、母さんが風呂に入ったタイミングを見計らい、あちこちにヒヨコのイラストが施されたプリクラ手帳を眺めていると、兄さんがやって来た。おとといから一週間、父さんは東京に出張してるため、家庭内は穏やかだ。まあ、一時的に過ぎないだろうけど。

 

「なーに見てんだ?気持ち悪い顔で」

「うるさいな。関係ないだろ?」

「今日、女の子とデートしてたろ?お袋には「男友達」とか言ってたくせに、お前も隅に置けねーな」

「何でそんなこと知ってんだよ?」

「お前が女の子と楽しそうにマックに入るとこたまたま見掛けたからさ。けっこう可愛いじゃん。なあ、どうやって誘ったんだ?母さんには黙っててやるから教えろよー」

 

ニタニタと、そっちの方が気持ち悪い顔じゃねーか。

「好きにすれば」と、冷めた目で言い放つと僕は「勉強」を口実に部屋から追い出した。

母さんには黙っててやる…ね。むしろ、チクってくれた方がこっちとしては好都合だ。まあ、ユリちゃんと桑原。兄ちゃんがどっちを目撃したのかは少々気になるが。

 

けど、「デート」というフレーズを聞いたとき、僕は動揺した。もちろん、兄ちゃんの勝手な誤解だし、本当にチクっても構わないが、動揺の矛先はそこじゃない。ユリちゃんに対する感情である。

 

「可愛い人」と認識しつつも、深く考えたことは無かったけど、今日の一連の中、彼女が僕の胸を熱くさせたのは事実だ。それはヒロに抱く性的なものとは違い、単純に一緒に居て楽しい、そんな感覚の延長線上にあるもの。桑原やクリリンや先輩や瀬川くんと違えば、公平とも違う感覚。上手く説明出来ないけど、彼女ともっと居たい、2人で居たい、はっきり言ってしまえば、桑原の存在が邪魔とさえ思った。

 

これも「好き」なのか?

 

別に身体や手に触れたいわけじゃない、だけど、脳裏に浮かぶのは彼女の微笑みばかり。浴室の扉の開く音が響くと、僕は引き出しの中のプリクラ手帳をカバンに忍ばせた。プライバシーなどお構いなく引き出しを好き勝手に開ける母さんだ。見られないためには学校へ持ってくのが1番だろう。

 

どうして母さんに見られたくないのか?

 

一晩中考えてみたが、確かな答えも出ないまま、憂鬱なる月曜日がまた始まるのだった。いや、高揚が重なれば憂鬱の存在など、滲んだ絵の具みたいに薄い。体感的には薄過ぎるほどだ。

 

 

(続く)

 

 

 

 

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