長編小説「思春期白書」 26~切実の優先~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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27話はこちらから

 

 

 

 

「カラオケかぁ。家族以外と行ったことないや」

「家族と行くって方が驚きだけど」

 

桑原とユリちゃんの3人で行くカラオケの日が目前に迫っている。そういう言い方はいささか大袈裟に聞こえるかもしれないけど、未経験、しかも、女子と遊ぶのも初めてな僕にとっては、朝が来るたびにカウントダウンだ。公平を誘えば男女比率は同じになるが、図書室への誘いも「先輩相手だと萎縮しちゃうから」と、やんわり断ったことを思えば避けた方が無難かもしれない。

 

両親不在のガランとした家、僕なんかは自慰行為し放題の環境に羨ましさを滲ませるが、「今日も帰りが遅い」と、呟く公平の表情はどこか孤独な匂い。それぞれの立場の葛藤、ヒロの一件は僕の想像力を掻き立てた。まあ、足りない部分は多々あるだろうけど。

 

殆ど公平の丸写しな宿題を済ませ、空が朱色に染まる頃、僕らはスピッツのアルバムをBGMに他愛の無い会話を繰り広げた。だけど、他愛の無い会話が軽蔑を解くか、それは不安に水をやる行為。何かで誤魔化すんじゃなく、ちゃんと伝えなければ、帰路の途中、また後悔に苛まれる。

 

「ねえ、公平…」

「ん?どしたの?」

 

「青い車」の軽快さに乗せ、僕は懺悔のように自らの誤った認識を吐露した。ヒロのヒーローさを目の当たりにしてきた中、彼を「完璧な人間」と捉えていたこと。結局はクラスの皆と僕は同じだということ。公平の言葉が無ければ気付かなかったこと。膝を抱え俯きながら吐露するたびに涙が込み上げた。泣き虫なのは幼い頃から変わらないが、今ほど情けないと痛感したのは初めてだ。

 

「別に太一を責めちゃいないって。それに、僕に責める資格は無いよ。だって…皆に僕の意見を突き付ける勇気なんか無いから…」

「…」

「そうだ!今日も晩ご飯、一緒にどう?あいにく、冷凍モノしか無いけどね」

 

その空元気が余計涙を誘い、全身が紅潮するような恥ずかしさを覚えた。明るく振る舞う公平に反して僕ときたら…慰めばかりをアテにしちゃってる。

 

だけど、軽蔑を否定した公平に、心底、安堵を抱いた。それが故の涙は決して後ろ向きなものじゃない。公平の前で初めて流した涙は、心を開いた証。きっとそうだと思う。そうだと信じたい…

 

 

「普段はこんな感じだよ。太一が来るのが事前に分かってたらこないだみたいに何か用意したかもしれないけどね」

 

食卓に並ぶカレー。とは言っても母親お手製じゃなく、レトルトを温めたものだ。同じくレトルトのご飯に、冷凍のカニクリームコロッケをトッピング。見栄えは多少華やかだが、侘しさに拍車を掛けた気もする。レトルトという予備知識が無ければ印象は違ったのだろうか?いずれにしろ、以前に感じた羨ましさは徐々に僕から遠のいていく。

 

「こんなものでよかった?今からでも出前、頼めるけど」

「ううん。充分だ」

 

電話台の下に置かれたピザやら蕎麦やらの出前のチラシの束。電話帳にも映る綺麗な束に、実際に頼むことは殆ど無いのが窺える。まあ、蕎麦はともかく、ピザや寿司など中学生が1人で頼むものじゃない。もちろん、僕なら大喜びってのが本音だけどさ、太一の悲壮感にそんな気楽な言葉、御法度だ。それぐらいは分かる。

 

兄ちゃんは帰ってきたけど、不協和音は相変わらず。食事の間、僕は自慢するかのように家の内情を語った。同情を求めたんじゃない。同調を求めたのだ。自虐を挟めば太一に寄り添えるかもしれない。その感覚こそが忌み嫌う同情だと言われりゃ返す言葉は無いけどさ…

 

「僕らのちょうど真ん中ぐらいがいいのかもね。何か真逆だ」

「確かに」

 

この真逆が光と影に分つとすれば、僕らはどちらに選別されるのか?何でも二分の篩いに掛ける自分のこだわりに辟易しながらも、公平との会話は滞りなく弾む。だけど、あどけない笑みの裏のクールさ、それだっていわば光と影みたいなものだ。なら、僕にも光は存在するのか?

 

「ん?どうかした?太一」

「ううん。何でも。食べ終わったら帰るから」

「えー!風呂は!?」

 

テーブルをバン!と叩く情熱的なリアクションに思わずガハガハ笑い転げた。何故、風呂にこだわるのか?何かの儀式か宗教か?それとも、公平にとっちゃ誰かと食事を取るのと同じ感覚なのか?股間に不安を感じつつも、断る理由も見付からず、僕は「仕方ねえな」なんて上から目線を取ってみる。

 

「けど、こないだヒロの前じゃ話、逸らさなかった?」

「ああ、銭湯の事?僕だって誰でもいいわけじゃない」

 

ずっと引っ掛かっていた疑問にも関わらず、公平はケロっとした表情で正論を放ち、僕はその瞬間、キョトンとなった。ドッキリを仕掛けられた芸人みたいな心地だ。

 

「ヒロが嫌いとかじゃなくてさ、ヒロを誘えば他の誰かも付いてくるかもしれない。そういうのはちょっとね」

 

…引っ掛かる必要など無かった。っていうか、予想した通り。何が境界線だよ、結局は僕の心配性がもたらしたもの、それだけ。

 

自らの馬鹿馬鹿しさに盛大な溜息を吐き、僕は先に食べ終えた公平に急かされるまま、カレーを平らげた。もちろん、この日の風呂も、何か事件的なものが起きるわけもなく、敢えて挙げるなら、無毛に対する感嘆が増えたってとこか。公平の成長の順調さを見せ付けられちゃ、嘆くなって方が無理だ。別に公平だって見せ付けているわけじゃないだろうけど、生えざる者の卑屈さは皆、変わらないと思う。

 

「大丈夫だって、そのうち生える」

 

公平の言葉を何度も過ぎらせ、家路に着いた。その言葉こそ同情な気もするが、憤るのはあまりに卑屈…というか惨めだ。当初の目的と心境にかなりのズレを感じながらも、僕は「やはりワカメとかが効果的か」などと真剣に考える。けれど、母さんにワカメの味噌汁でもリクエストしようものなら、魂胆を見透かされそうで、結局は何も言い出せないまま、寝床に祈りを捧げた。

 

ついでに、自慰行為の自由も…いや、それの方が遥かに切実だ…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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