長編小説「思春期白書」 11~オトナの証~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「僕はこないだ生えたばっか」

 

あまりに突拍子の無い問い掛けに硬直する僕に対し、永沢は違った。多少の間と苦笑いはあったものの、その答えは実に堂々としており、こういう話題の「平気さ」が窺い知れる。まだ戸惑いを隠せない僕からすりゃ、頬の紅潮さえ、清々しく映る。

 

けど、永沢が答えたことによって、僕の戸惑い…いや、ある意味の脅威は沸点に達する。150あるかないかの身長、僕より低いというのにまさか生えているとは…

 

「僕もだよ。つい2週間ほど前だね。お風呂場で気付いて、思わず鏡の前に立っちゃった」

 

僕の答えを待つことなく、声を高らかにする大西。

なるほどね、あの質問は身体のどの部位より最も成長の証となる陰毛の存在をアピールしたかったのだ。

確か、エロコンビのうちのどちらかも教室で高らかに宣言してたっけ。

彼らに羞恥心は無いのか?その疑問が渦巻いたせいで周囲の反応はよく覚えてないけど、一部の女子から「おめでとう」などという賛辞が飛び交ったのは鮮明だ。下ネタを毛嫌いする女子が何故、そのような反応を示したのかは謎だが。

 

いや…そんなのはどうだっていい。2人の視線が僕に向くと、クーラーが効いているにも関わらず大量の汗が顔中に噴き出した。この汗の異変で察してくれりゃいいのに、あくまで2人は自白を待つつもりらしい。

 

「…僕は…まだ」

 

俯きながらか細い声で答えた僕に、2人は「成長は個人差だから」だの「そのうち生えるよ」だの、励ましの言葉をくれた。もちろん、そんなつもりじゃないのは分かっているけど、卑屈な僕はその励ましの真意は嘲笑な気がして、惨めな気分になる。

 

でも、惨めさだけじゃない。生えかけの陰毛というのがどれくらいのものなのか、興味をそそられたのも確かだ。小学生の修学旅行とかでアソコを目にする機会はあったが、皆、無毛だったし、風呂場で見た父さんのアソコは当然のことながら「生えかけ」などという生易しいものじゃなく、ジャングル状態で、あまりの毛深さに正直、気持ち悪いとも思った。

 

とはいえ、2人に「見せて」と頼むような勇気などありゃしない。「それはさすがに…」と、ドン引きされる可能性、仮に見せてくれたとしても、公平性を思えば僕も見せないわけにはいかなくなるだろう。ドン引きより怖いのはむしろそっちの方だ、ヒロのブリーフ姿を自慰行為のオカズに使っている僕が、2人のアソコを前に勃起しない自信は無い。99%勃起するといっても過言では無いだろう。

 

ひょっとしたら、どちらかが「見せ合い」を提案するかも…大西の突拍子の無さを思えば、それも充分有り得たが、母親が帰宅したことにより、僕らの陰毛トークは幕を下ろした。2人にとってどうだったかは不明だけど、少なくとも、僕にとって母親は救いの女神。日頃の行いのおかげだ、などとホッと胸を撫で下ろしながら、自らの精神年齢の低さを更に思い知る。それでも、救われたことに変わりはない。

 

 

「皆、心配してるからさ、おいでよ」

 

夕食を勧められたが、「何でもっと早く言わないのよ。もう出来上がってんのよ」と、母さんにドヤされるのは目に見えている。どうやらそれは永沢も同じなようだ。

 

「…うん。ありがとう」

 

帰る間際に発した永沢の言葉…正確には言い方に僕は感心した。物腰は柔らかく、押し付けるわけでもない、風邪のお見舞いの「お大事に」みたいなものだ。大西も言及は避けたものの、この部屋に踏み入れたほんの少し前を思えば、心なしか穏やかな表情に映る。

 

 

「大西くん、来るかな?」

「そう簡単に明日からってわけにもいかないかもしれないけど、それならまた来ようよ。継続は力なり、ってね」

 

茜色の光を浴びた横顔は眩しく、僕は無意識的に永沢に見惚れた。「好き」とかそういうのじゃない。同じ影という僕の思い込みがドミノみたいに崩れていく、その様から目を離せないだけだ。

 

「ねえ、佐藤くん」

 

視線を感じたのか、突然こちらに目を向けた永沢に、僕は「な…何?」と、挙動不審な言動を取った。反射的に俯いたのも含めりゃ、明らかなキョドり具合だ。

 

「さっきのこと、気にしてる?」

「さっきのこと?」

「ほら、毛が生えたのどうのって話」

 

伸びた影が微妙に揺れるのを眺めながら、内心、「お手上げだ」と、呟く。永沢の洞察力の鋭さを前に太刀打ちなど出来やしない。だから僕は「まあね」って頷いた。自虐的な笑みを取り入れて。

 

「大丈夫だよ。多分、僕や大西くんが早いだけ」

「そうかなぁ。クラスの皆だって大半生えてるかも」

「そんなこと無いと思うよ」

 

分かれ道に着く頃、永沢は「誰にもナイショだよ」って唇に指を立てた。それは、「そんなこと無いと思うよ」の根拠であり、更に僕を騒めかす衝撃でもあった。「また明日ね」と、手を振った永沢に笑みすら零せないほどの騒めき。誰にもぶつけられない思いを抱えたまま、僕は何かからはぐれたようにトボトボと、帰路に着くのだった。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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