長編小説「生者の行進-Still alive-」 40~傲慢カウンセラー~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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溜息が重なる。それは共鳴と呼ぶには足りない気もするが、やはり、七瀬リカの垣間見せる正気を失った顔は、鏡に映る俺と同じ類だ。

 

「和美に取り入るつもり?あの子に何かするなら許さないわよ」

「そんなつもりはない。だが、もう少し用心した方がいいって伝えといてくれ」

「あなたに言われなくても分かってます。あの子、世間知らずだから」

 

和美との談笑が気に食わないらしく、リカの不機嫌さは近くの喫茶店に入った途端、露呈した。手土産の用意は特に「何か魂胆が…」と怪訝を煽る材料になったが、実際、その通りなので否定は出来ない。

 

「まあいいわ。それより、あの[人殺し]とは別れたみたいね」

 

たまたま近くを通ったウエイトレスの驚愕的な表情を前に、「その言い方はやめろ」と、顔を曇らせる。自らの尖りを膨張させたいのか何だかは知らないが、少々幼さを感じる部分だ。聞かされる方はたまったもんじゃないってのに。

 

「私のせい?」

「君のせいじゃない。俺の出した答えだ」

「そう。賢明な選択ね」

 

軽い世間話の後に…とも思ったが、取り付く島もないリカの態度に、俺はストレートに畳み掛ける手段を打った。祐太との別れを知ってるってことは、あれから少なくとも1度は会ったってことだ。

 

「ええ、先週会ったわ。向こうからすれば不本意でしょうけど」

「待ち伏せか。程々にしないと風邪ひくぞ」

「知ってる。翌朝、酷い咳で目が覚めたから」

 

リカは自嘲気味に笑い、「カイロをもっと貼るべきだったかしら…」と、首を振ってホットコーヒーを啜った。椅子に掛けられたシュウのコートに目をやれば、その薄さに納得する。ファッションという意味じゃそれなりのものはあるが、機能的な面は欠けている。しかし、いかなる憎悪をもってしても季節には敵わない。祐太との別れの際に得た教訓がしみじみと脳内に漂う。

 

「で、その時はいくら要求した?」

 

あまりにも突発的な台詞に、さすがのリカも狼狽を隠し切れない様子だったが、それはほんの数秒のこと。彼女はこちらに威嚇のような眼差しを向け、「プライバシー侵害。ま、バレちゃったら仕方ないけど」と、荒々しい声を放ち、腕を組んでふて腐れた。背もたれに寄り掛かる姿は彼女にとって精一杯の虚勢かもしれない。

 

「でも、向こうが悪いのよ。シュウ兄の葬儀が終わって、数日後にやって来たわ。馬鹿正直に自分が何をしでかしたか細かく説明して…だけど、シュウ兄はもう死んだ。その後に聞かされるこっちの身も知らないで頭を下げるから…お母さんが罵声とともに要求したのよ。勿論、本気じゃ無かったわ、それだけの憤りを伝えたかっただけなの。なのに、あの男は間に受けて貯金の全部を翌日には持ってきた」

 

「それを受け取った君と母さんはもっと寄越すように言った。当時高校生の祐太の貯金などたかが知れてる」

「足りない分は何年掛けてでも払います。そう言ったの。くれるって言うから貰ってるだけよ。何が悪いの?」

「別に悪いとは言ってない」

 

リカの言葉は恐らく本当だろう。そもそも「慰謝料」が発生するかどうかさえ疑わしいのだから、拒否することも出来た筈だ。なのに、未だにああいうやり方で金を稼ぎ、渡してるってのは…アイツらしい愚かさだ。反吐が出そうなくらいに。

 

「じゃあ、何?憎しみなんか忘れて真っ当に生きろ、みたいな説教でも垂れるつもり?」

 

今にも噛み付きそうな興奮状態のリカに焦点を当て、俺は「カウンセリングだ。俺自身の」と、見苦しい言い訳に捉えかねない目的を明かした。見苦しいのは認めるが、言い訳じゃない。本当にそれが目的なのだ。

 

「だから別に帰ってくれても構わない。君にとって有益かどうかは保証出来ないし、ただ、試すことは全くの無駄じゃないだろう。左右どちらに転がるとしてもな」

 

傲慢だ。

実に傲慢だ。

 

七瀬リカは間違いなく、ここに残る。そして、顔をしかめながらも席を立とうとしない彼女を見て、納得したように頷く。煙草をふかし、呑気に珈琲のおかわりを頼むと、俺のペースがじれったいのか、彼女が先に切り出した。

 

「これ以上何を話せばいいの?」

「話すのは俺だ。誰にも話したことのない部分を君に聞いてほしい」

 

勿体ぶってるつもりは無い。俺だって内心じゃ心臓はバクバクだし、シャツの中は汗塗れ、迷いが無いと言えば嘘になる。だけど、これも本能だろうか?散々考えた結果、どうしてもリカを見過ごすことは出来なかった。

 

彼女を完全な加害者に染めたくは無い。

それは同時に、祐太を完全な被害者にさせたくは無いって事。

俺を傍観者という名の加害者に堕としたくは無いって事。

 

あらゆるものを兼ね備えたカウンセリングだ。

 

ま、資格なんてありゃしないんだから、結局は自己満足の域を越えないのだろうけど、足掻けるなら足掻きたい。

 

例えそれが、俺の生き様を真っ向から否定することになったとしても…

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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