長編小説「生者の行進-Still alive-」 39~彼女の知らない彼女~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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限りなく透明に近い息。

 

朝の情報番組の「今日は比較的暖かい日になりそうです」の珍しい的中を実感する頃、住宅街の中にひっそりと佇むマンションが視界に入った。我が家程じゃ無いが、それなりの色褪せた感に何故だか安堵を抱く。とはいえ、オートロックだ。入り口前の数字から「202」を選ぶと、少し曇り掛かった女の声が聞こえた。

 

「はい…どちら様でしょう?」

「高森拓斗と申します。4時に七瀬リカさんと会う約束をしてる者なんですが…」

「あっ!リカから聞いています。どうぞお上がりください」

 

口調が乱暴なとは違い、彼女…石井和美の対応は物凄く丁寧だった。わざわざエレベーターを待つのもじれったい、階段で2階に上り、左右に分れた廊下を見渡すと、右の2つ隣のドアが開く。若い女の1人暮らし、少々、用心さが足りない気もするが、俺にとっちゃ好都合だ。

 

「リカはさっき、スーパーへ出掛けてまだ帰って来て無いんです。どうぞ、中でお待ちください」

「すみません、早く着き過ぎちゃって…あの、もしよろしければお召し上がりください」

「ありがとうございます。わ~、濃厚フレンチ!これ大好きなんです。嬉しい」

 

事前のリサーチによれば、ここの駅前のフレンチトースト専門店が女性の間で大人気らしく、石井和美の反応はそれが真実の証明になった。女だらけの中、30分待っただけの甲斐はある。ちなみに、約束より30分早く来たのも計算だ。リカより先に期間限定の居候先、和美から話を訊くための。

 

「すぐ、お茶淹れますね。紅茶の方がいいですか?」

「俺はどちらでも。何かすみません…」

「いえ、濃厚フレンチがちょうど食べたかったので。いつも行列が出来てるでしょ?寒空の下に並ぶのは…寒がりなもので…」

 

背中を向け、キッチンに立つ和美を眺めながら、予想以上の効果を発揮した「濃厚フレンチ」の袋を覗く。注文を受けてから作る「出来たて感」を武器に何とか2人きりの空間へ持ち込もうと考えていたのだが、まさか彼女の方からリビングへ通すとは…見た目の純朴さもあり、つくづくその無防備っぷりが心配だ。

 

ま、リカから話を聞いている=俺のセクシャリティを把握している、それを踏まえれば少しは…いや、やはり無防備過ぎる。そもそも、俺の計画自体がゲスな狼の考えるそれと全く同じなのだから。

 

「リカさんは普段、どんな子ですか?」

「明るいし優しいし、姉御肌みたいなとこもあって頼れる存在です。でも…夜中になると布団の中やベランダとかで泣いてるときも…お兄さんの夢も見るんでしょうね、「シュウ兄、シュウ兄…」って寝言をいうことも…」

「そうですか。ご存知かとは思いますが、俺もシュウさんとは似たような境遇なので、リカさんを放っておけないんですよね。お節介かもしれませんが…」

「そんなこと…高森さんとお会いした日のリカはとても嬉しそうで…私じゃ想像しか出来ませんし、気持ちを分かち合える相手がきっとリカには必要なんだと思います」

 

擽ったいほどの言葉に、俺はほのかに香るハーブティーを口に付け、照れ笑いを浮かべた。勿論、表面上だ。和美の口振りから察するに、彼女はリカの別の顔を知らないのだろう。

 

 

リカが祐太に多額の金銭を「慰謝料」として要求し、受け取っていることも、その「慰謝料」の工面の為に、祐太は身体を売り続けなければならないことも。

 

 

ま、俺から話すつもりは毛頭ない。それに、和美の純朴な面を思えば、一生知らないままの方が彼女の為だとも思う。

 

 

「あの…高森さん。こんな事、私の口から言っていいのか分かりませんが…」

「何ですか?」

 

伏し目がちに和美はリカの「真意」に繋がる言動を、言葉を選ぶように語った。実のところ、俺が最も聞きたかったのはその部分であり、和美の言葉は微かな光の到来を予感させた。祐太とリカだけのものじゃない、過去を引き摺り、憎悪に捕らわれ続けた俺にとっても…

 

 

「ただいま~。って、高森さん!もう来てたの?」

 

日常的習慣であるかのように今日もシュウのコートを着て帰宅したリカを俺は「外で話そう」と促した。似た境遇という奇妙な偶然が生んだ関係性の中、もしかしたら俺は「運命」と位置付けたのかもしれない。

 

ここを逃せば、もう2度と「再生」は有り得ない。やはり、俺は…いや、誰しもが救いを願うのだ。それが、人間という愚かな生き物の「らしさ」なのだろう。

 

 

(続く)

 

 

 

 

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