長編小説「生者の行進-Still alive-」 38~再びの世界~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「高森、お前、調理場に立ちたいと言っていたな?仕込みから始めてみるか?」

「はい!お願いします!」

 

区切りの日から3週間、料理長の言葉に、俺の胸は憎悪とは全く別物の熱さに滾った。ある程度の距離を保ちながらも、飲みに誘われたら行くし、後に入った新人の歓迎会も参加した。燃え尽きの俺はきっと衰弱するだろう。そんな風に予想したのだが、どうやら俺という人間はそれなりにタフらしい。ま、熱情を注ぐ対象、即ち、料理がここにあるお陰…かな。或いは、機械化に足を進めたか…

 

「お疲れ様。なぁ、1杯どう?」

 

以前、少しだけ触れた、同じセクシャリティを持つ、木内貴弘は毎日のように俺を誘う。和泉マネージャーの余計なお節介のせいで、シフトがやたら重なり、木内自身も満更では無いらしい。とはいえ、もう人との深い繋がりは持たない。2回に1回は応じ、家に行き交うことはしないのが、俺のルールだ。

 

「静かなとこなら別にいいけど」

「んじゃ決まり!」

 

軽いノリは嫌いじゃないが、軽いセックスは勘弁。前にしつこくセックスをせがまれたときにブチ切れしたらそれ以降は無くなったが、ブチ切れの後もこうも誘ってくるとは…いい根性だ。

 

「あら、いらっしゃい。仕事、順調そうね」

 

木内の存在を盾に「異邦人」を訪れた俺もいい根性だろうか。3週間も間の空くことは無かったけど、心配するでもなく通常通りの振る舞いを見せる辺りは、レイコの十八番。

 

「へえ、こういう店があったんだ。知らなかったな」

「どうぞご贔屓に」

「玲奈は?」

「玲奈ちゃんね、お父さんのところに帰っちゃったの。あれからすぐだったわ」

 

「そう…」川に小石を投げるような返事の中、正直なところ、複雑な心境になった。勿論、帰るも留まるも自由だが、もっと違う方法があったんじゃないか…いや、今更振り返っても仕方ない。それも含めて背負うのを決めたのだ。

 

「玲奈ちゃんって誰?」

「お前には関係ねぇよ。奢ってやっから好きなの呑めよ」

「うっし!タダ酒ほど美味いもんはねえ!ってな」

 

能天気な木内がしんみりとした空気を粉々に砕いてはくれたが、彼がトイレに立った隙に、俺はふと、祐太の現在を尋ねてみる。レイコは若干の躊躇いを見せながらも、今も売り専の仕事を続け、あの寮に住んでるらしい、そう教えてくれた。何となくそんな気はしていたが、結局、あの日の一切は俺の自己満足に過ぎず、何の効果も無かった。ま、俺が効果をもたらすなどということ自体が傲りってやつなんだろうけど。

 

 

「あれ~?見た顔だと思ったら拓斗くんだ~。いや~、元気そうで安心したよ~」

 

俺と木内の間に割り込むような粘着質な声、背筋の寒さに青くなりながらも振り返れば、そこには店長と20歳前後の金髪の若い男の姿があった。芸人なら「笑いの神の降臨」とでも言い表すかもしれないが、俺にとっちゃ「悪魔に好かれる男」ってとこか、ま、遅かれ早かれ、何処かで会うだろうとは覚悟していたが。

 

「お久しぶりです。そちらの方は?」

「新人のナツキくんだ。良ければ指名してやってくれ」

 

ポンと背中を押されると、ナツキくんは明らかな作り笑いを浮かべ、「ナツキ、19歳です。よろしくお願いします」って、アダルトビデオの面接みたいにシャツの隙間から覗く、小麦色の肌を見せ付けた。しかし、引き攣りの笑みに震える声、似合わない金髪、大体、バイトの身の俺らに営業をかける自体、間違いだと思うが、店長にすりゃ、若い男を手元に置くことが大事なのだろう。ある種のステータス的な側面かもしれない。

 

だが、ナツキくんがトイレに立つと、店長はあの不気味な笑いに乗せ、意外な言葉を口にした。

 

「そういや、祐太が[エスコート]で働いてる理由は聞いたかい?今更だが、君が教えてほしいって頼むなら教えてあげるよ」

 

誰が頼むか…そう言い返そうとすると、「ぜひ、教えて頂きたいわ。ね?拓斗くん」、何故かレイコが代返した。汚らしい歯茎を並べ、豪快に店長は笑う。とはいえ、どうしても解けなかった唯一の謎に変わりは無く、俺らは木内とナツキくんを帰した後、奥の部屋に移動するのだった。

 

 

この時は思いもしなかったが、これが再び波乱へ誘うきっかけになる。いや…正確には俺が波乱を巻き起こす。映画のスタッフロールの後のワンシーンみたいな続きに足を踏み込むのだ。

 

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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