長編小説「生者の行進-Still alive-」 37~「独り」に帰る~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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前回の話はこちら

 

38話はこちらから

 

 

 

小6の時、大樹とクラスの男子数名の間で、スカートめくりが流行していた。被害の大半は玲奈や彼女の周りの男勝りな女子であり、中には仕返しに大樹のズボンをパンツごとずり下げる反撃に出た猛者の居た。しかし、当然ながら泣き喚く子も居る。名前は忘れたが、玲奈の友達であったため、大樹は放課後の教室にて断罪された。

 

「女を泣かすなんて最低!」

 

玲奈の一言をあの時の俺は他人事みたいにただただ頷いていた。まさか、20年の歳月を経て俺が泣かせるとは思いもせずに。

 

「玲奈ちゃん、世の中にはどうしようもないこともある。それは薄々勘付いてたんじゃない?」

 

レイコの諭しに玲奈は更に顔を埋め、頬に流れる涙を拭く仕草さえ止まった。だが、俺はもう傾かない、いつまでもあの頃の3人に追い縋るままなら、この女もやがてはこちら側の人間になるだろう。俺みたいなのにこれ以上構っちゃいけない。結局は善意に刃を返すような破壊者なのだから。

 

「そろそろ行く。勘定は?」

「今日はいいわ。その代わり、ツケはちゃんと払いに来てね」

「…あんたらしいな」

 

別に「2度と来ない」とは言ってないのだが、レイコの掛けた保険は正しいのだろう。元々は店長に連れられた「異邦人」、確かに、ツケでも無けりゃ足が遠ざかるのは顕著だ。

 

「…待って」

 

背後を通り過ぎた俺を、玲奈はBGMに掻き消されそうなほどの微かな声で呼び止めた。躊躇いながらも足を止めてしまうのは、答えへの期待だろうか。

 

「もう関わらない。さよなら」

「ああ」

 

無理してるのは明らか、だが、玲奈らしい。このまま「異邦人」に留まるかは自由、しかし、俺という理由はこれっきりだ。コイツなら「思い上がり」と吐き捨て、光の差す道にようやく踏み出せる。

 

…これが最後の期待。

 

 

夜風が吹きすさぶ街、タクシー代くらいは持ってるが、俺は歩いて帰ることにした。どうせ明日は休みだし、急ぐ必要も無い。それに、長い道程に流離えば、「独り」が再び中毒性を帯びるかもしれない。

 

「独り」に帰る。これこそが俺らしさ…いや、俺って人間はそうでなきゃならないのだ。

 

だが、月の隠れた闇夜の効果も虚しく、脳裏に浮かぶのは祐太との日々、それから、七瀬リカ、シュウ兄妹だ。シュウの顔は知らないが、リカが羽織っていた明らかに大き過ぎるベージュのコート、あれはシュウの服らしい。兄の遺品を纏い、あの街を流離うリカは果たして何処に辿り着くのか?別に祐太に同情するわけじゃないが…いや、決めるのは彼女だ。成れの果ての姿が限りなく俺に近いとしても。

 

 

帰宅するなり、携帯から祐太と玲奈のアドレスを消去した。仕事を紹介された手前、レイコは残すけど、こちらから連絡することはもう無いだろう。ま、「独り」に馴染んだ頃にはツケを払いに行くつもりだが。

 

着替えもせずに寝転がると、空腹を抱きながらも目を瞑った。昼のまかない以降、珈琲とお茶しか口にしていない。けど、倦怠に苛まれる身体は動かず、ひたすらに目を瞑り続けた。静寂のノイズが耳元を擽る。甘い香りに誘われ集まるミツバチのような戯れ。

 

結局何処へも行けなかった体たらくを、唯一受け止めるものに寄り掛かり、区切りの夜はようやくのピリオドを迎えるのだった…

 

 

(続く)

 

 

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