長編小説「生者の行進-Still alive-」 36~俺の為の幕引き~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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前回の話はこちら

 

37話はこちらから

 

 

 

「お前みたいな害虫に机も椅子も必要ねぇだろ。俺らが棄てといてやったぜ」

「おら!床に正座だ。座れるだけでもありがたいと思え」

「制服も要らねえよなぁ~。脱がしちまおうぜ~」

「暴れんなよ!大人しくじっとしてろ!」

 

 

…高校時代の日常の一コマ。

 

登校すりゃ、教室の窓から外へ投げられた机や椅子を運ぶのが、日課、素っ裸に剥かれるのも恒例、挙げればキリが無いが、全校生徒は勿論、教師も、手を差し伸べてはくれなかった。

 

帰宅すりゃ、父親は「生き恥」と罵るし、母親はゲイを「病気」扱いした。姉貴が止めてくれたから実際に病院に連れられることは無かったが、「いつかちゃんと普通に女性を愛せるわ」などと、慰めという名の刃を容赦なく突き刺し続けた。

 

 

「自殺が未遂に終わったときも父親は道場に籠り、顔さえ見せなかった。だけど、結果的には功を奏した。周囲の筋書き通りには動かない、しぶとく生きて、とことん、生にしがみ付いてやろう、ってさ…」

「拓斗さん…」

 

過去の話の衝撃度か、シュウとの奇妙なまでの一致点か、祐太の顔は驚愕を極め、膝を抱えながら身震いする。てっきり、店長に俺の過去を吹き込まれたのかと思ったが、どうやら本当に知らなかったようだ。ま、どっちでもいいけど。

 

「店長からは、僕の過去を…シュウを殺したことをバラす、って言われて。拓斗さんには僕から話したかった…いえ、拓斗さんがこうして来てくださらなければ、きっと僕はこの先も隠し続けたと思います。すみません…」

「過去を探る…か。悪趣味にも程がある。だが、全てを知った今、お前がどうするかは自由だ」

 

俺なりの前向きな言葉を放ったつもりだったが、祐太は微かに頷くだけ、晴れ間が覗くことは無かった。ま、晴れ間を奪い去った俺が言えた立場じゃないけど。

 

「俺に執着したのは、シュウに似たものを感じたからか?もっと言えば…」

「そうです。初めて会ったとき、驚きました。シュウが時折見せた哀し気な表情にあまりにも似てたから。馬鹿ですよね、僕は拓斗さんの支えになることが贖罪だと思った。許される罪じゃないのに…」

 

軽く部屋を見渡すと、俺は重い腰を上げる。もう2度とここに来ることは無い、そう思えば、一抹の寂しさに揺れる。そんな柄じゃねえってのに。

 

「何が贖罪だ。お前に憐れみを受けるほど俺は腐っちゃいない。それ以前に、俺はシュウの代わりじゃない」

「すみません…でも、僕…拓斗さんと一緒に居るうちに…」

「もう…終わりだ」

「えっ?」

 

憎悪を洗いざらい吐き出したことによって、燃え尽きた心地だったが、祐太の甘さに再び燃え盛りそうな気がした。けど、怒り任せのクライマックスはあまりに後味が悪い、これ以上責め立てちゃ酷だ。それは、祐太の為じゃない、俺が加害者にならない為の上っ面な平静。

 

 

「分かんねぇのか?俺の憎悪が息絶えてしまわぬ限り、俺はお前を苦しめる。さっきみたいにな」

「…っ!」

 

同種でありながら、シュウを突き放したコイツを、許すことは出来ない。コイツの罪に比べりゃ、大樹の方がマシだとさえ思える。

 

「荷物は適当に処分してくれ」、それだけ付け加えると、もう振り返ることは無かった。あの七瀬リカの憎悪を思えば、祐太の道は茨の道かもしれない。だが、情けを掛けるような偽善さえ、俺は持ち合わせちゃいないのだ。どす黒くコーティングされた心臓に、憎悪以外のものが侵入する余地はもう無い。

 

 

靴紐を結び、扉を開けると、潔癖な空間はある種のウイルスのように思えた。左右か、或いは下の階か、俺らの関係を店長に密告した人物が居る。別に恨んじゃいないが、身体を売る仕事ってのは足の引っ張り合いだ。そのギスギスした空気に祐太が慣れることは無いだろう。

 

早期の解放を願いながら、冷酷に扉を閉めた俺の行動は矛盾なのだろうか?

ま、とにかく、これは区切りだ。2度と来ない場所に背中を向ける様が、負け犬みたいな惨めさを醸し出したとしても。

 

 

終電には確実に間に合わなくなるだろうけど、帰路につく前に「異邦人」に立ち寄った。相変わらず客足は疎ら、経営状態を案じながら、指定席に腰掛ける。

 

「いらっしゃい。レストランの方はどう?」

「うん、まあ、何とか」

 

曖昧な返事にレイコが苦笑を浮かべると、奥からひょっこり玲奈が顔を覗かせた。断ち切れない憎悪は予想通りだが、何かしらの期待を抱いてた筈の彼女には正直、申し訳ないとも思う。

 

「タ~ちゃん、祐太くんとはどうなったの?」

 

薄い笑みの玲奈が隣に座る。望まない再会だったが、今振り返ればきっと良かったのだろう。気付かれぬように溜息を付き、煙草片手に渇きの身体から言葉を絞り出す。

 

「…祐太とは別れた」

 

心境の苦々しさが遥かに勝るせいか、グラスのウイスキーはロクに味がしない。暗い影を落とす玲奈の横顔に若干の眼差しを向け、俺は祐太との顛末、そして、これからのことを語り始めるのだった。

 

長い夜を引き摺るようにゆっくりな速度で。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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