長編小説「生者の行進-Still alive-」 35~醜き本性~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


テーマ:

 

 

 

前回の話はこちら

 

36話はこちらから

 

 

 

当時17歳の高校2年だった七瀬シュウ。彼の境遇はあまりに俺のと似通っていた。

 

自らのセクシャリティに悩み、苦しみ、1人じゃ抱えられなくなって、相当な覚悟を抱く、シュウの場合は文字通り「決死」の覚悟だったのだろう。

 

「シュウとは中学から一緒でした。僕は昔から運動が苦手で、ロクに泳げないし、走りも遅いし、跳び箱さえまともに跳べない、いつも周りからは馬鹿にされてた。けど、シュウは違った。練習に付き合ってくれて、励ましてくれて…僕にとっての光だった」

 

複雑な軌跡だ。

 

シュウにただの親友じゃなく、恋愛感情に傾いた祐太の想いは、俺が大樹に抱いたものと同じ、なのに、高校に上がってからは、シュウは俺、祐太は大樹に立場が変わる。ま、親友の間柄の2人が両方ともゲイだったってのはなかなかレアなケースだろうが。

 

 

「シュウに惹かれるのを必死に抑える毎日だった。僕がゲイだと知れば、絶対、今までの関係性が崩れてしまう。怖かった、とても。そんな中、クラスメイトがある日、僕に言った。[シュウはお前に気がある。お前もそうなのか?]って。本気か冗談かは分からない、それでも、僕の不安は増す一方だった。シュウが僕を好きかもしれない、何より嬉しい可能性なのに、喜べなかった。ゲイだなんてバレたら、僕はもう学校どころか、外さえロクに歩けない…」

 

大袈裟に聞こえるかもしれない。だが、俺には深く突き刺さる。実際にあの地獄が始まって以降、自ら外出することは無かった。大学のセンター試験さえ、それぞれの視線が俺に向いてるような気がして、吐き気やら頭痛やら悪寒やら、退出しそうになったほどだ。

 

 

すっかり冷め切った茶を飲み干し、俺は荒ぶる呼吸を整えた。結末までの道程が手に取るように分かってしまったから。血潮は滾る。あらゆる細胞から発せられた熱が胸部から上昇していく。その揺らめきは夢遊病者みたいに覇気の失せた祐太の心髄を容赦なく突く。

 

「続きを話してくれ」

「…」

 

壁にもたれたまま動きを止める祐太の傍に寄り、「じゃあ代わりに話してやるよ」って囁く。

 

すると、薄い唇が微かに震え、眼差しは俺を捉えた。今にも泣き出しそうな表情を冷酷に見下げるのは、絡み合う糸は無慈悲の領域に入った証。俺とシュウの過去がどちらの過去かさえ見失うほどに混ざり合った果ての姿だ。

 

「お前は次第にシュウと距離を置くようになった。自己保身の為だ。それだけで済めば違ったかもしれない。だが、シュウが自身のセクシャリティと中学から抱いた恋心をお前に告げた瞬間…」

「…」

「お前は拒んだ。いや、お前はシュウを否定した。男同士は気持ち悪いとかそういう類だろう。別にそれ自体は珍しい話じゃない」

「…っ!」

「だが、シュウは薄々勘付いていた。確信って言った方が正確か。お前も同じセクシャリティじゃないかって、ま、実際同じだし、彼の読みは正しかった。けど、最大の誤算は…」

 

 

死に掛けの魚みたいに口をパクパクさせる祐太に、狂気的な微笑を浮かべた。大樹に放ち切れなかった憎悪さえも纏い、俺は更なる狂気を容赦なく突き刺す。細胞の全てが毒に化したのだ。

 

 

「同種でありながら、お前が否定したこと。違うか?シュウが絶望に堕ちたのは周りじゃない!お前に、ずっと一緒だったお前に突き放されたことだ!違うか!?」

 

口内に血の味が蔓延する。胸倉を掴み、桁違いの怒号を畳み掛ける俺の暴走は醜い悪魔の所業かもしれない。クラス一丸となり、俺を断罪し続けたアイツらと何ら変わりは無いのかもしれない。

 

だが、これこそが本性だ。

歪な憎悪を生の糧とした愚かな男の剝き出しの姿。

 

 

「…その通りです。僕が突き放したせいで…シュウはビルから飛び降り、自殺しました…ご遺族に[人殺し]と呼ばれるのは当然です」

 

「ご遺族」、その言葉の重みに、思わず手が離れた。早くに父親を亡くし、シュウとリカ、母親の3人が送ってきた貧しくとも温かい生活。

 

「お兄ちゃんが自殺してお母さんは生気を失った」、リカが最後に打ち明けた想いが、血の匂いを余計に醸す。

 

俺がとやかく言うのは筋違い。そんな事は分かってる。それでも、俺は、この憎悪を抑え切れやしない。シュウの境遇があまりにリンクし過ぎたせいか。

 

 

「拓斗さん?」

「…この手首の傷、まだ話してなかったな」

 

上着を捲り、大半を日陰に閉じ込めた手首の傷痕を翳す。何故、こちらに傾いたかは自分でもよく分からないが、蛇口から水道水が流れるように、俺は淡々と呪縛の根源について語り始めた。確かなのは義務じゃなく、「そうしたい」意思によるものだ。

 

 

「あれは、梅雨空の時期だった。中間試験が終わり、親友の大樹にカラオケに誘われて…」

 

口に出すのに躊躇いが無いわけじゃない。だから、振り絞った。俺じゃない誰かの身の上話を明かすような感覚を纏って。

 

 

(続く)

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

有沢祐輔さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス