長編小説「生者の行進-Still alive-」 33~幼き彼女が言うには…~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「拓斗、卒業式、来いよ」

 

大学受験の終わりと同時に、俺は誰より先に卒業の門をくぐった。あれだけ「学校なんかクソつまんねえ」みたいな態度を示しながらも、練習だの何だの、無駄な儀式に取り組む輩。彼らを、誰の侵入も無い部屋から見下していたのはちょうど今ぐらいの時期だった。母さんは「一生に一度」とか言ってたけど、父さんは珍しく俺の考えに同意した。「卒業式にかまける暇があったら大学への準備を進めろ」ってさ。血筋かな、あの人は形式的なものを嫌がる傾向があった。ま、俺にとっちゃ有難い傾向だが。

 

その矢先に届いた大樹からのメール。虫唾が走った。

呼び捨てにされたこと、命令形なこと、まだ俺を虐め足りないのか、ってこと、色々だ。

 

だが、関係の破綻から1年半以上、アイツが俺のアドレスを未だに保存してたことは少し引っ掛かった。勿論、だからと言って素直に従うわけもない。ようやく地獄から地上へ這い上がれたのだ、もう2度と関わるものか、当然の決意は揺らぐ筈も無い。

 

しかし、アイツは妙にしつこかった。放課後に家にまでやって来て…勿論、母さんに追い返させたけどさ、胸の中がモヤモヤして掻き乱されたのは事実。

 

結局、会わなかったし、卒業式も出席しなかったが、アイツの目的は何だったのか?アイツにしか分からない。つまり、確かめる術は無い。

 

 

 

火山灰みたいな色の雲が覆う朝、激しい頭痛が、記憶のせいか二日酔いのせいか曖昧なまま、俺は家を出る。そういや、和泉さんが「歓迎会」とか言ってたっけ。まだ顔を合わせてない従業員、中でも、同じゲイの奴には多少の興味がある。馴れ合うのを嫌っていた筈だが、まさか俺から求めるようになるとは、意外過ぎて脅威さえ抱く。

 

 

「おい、高森!何やってんだ!」

「すみません!」

 

小麦の粉を派手にぶちまけ、グラスを割り、挙げ句にはオーダーを取り違える。ミスの連発に料理長からゲキの嵐だが、憂うのは自分の不甲斐なさだ。酒に煙草に不眠、ただでさえ不健康極まりないというのに、無意識的に夢の中の大樹が浮かんで…いや、大樹のせいではない、慣れてきたことに現を抜かした俺の甘さだ。腰を据えなければせっかく紹介してくれたレイコの顔も潰すことになる。

 

だが…

 

「高森くん、今日はゆっくり休んでなさい」

「大丈夫です。もう何ともありませんから」

「その状態じゃお客様の前に立たせられないわ。ここ、使っていいから」

 

料理を運ぶ途中、強い眩暈を感じた俺は踏み止まることも出来ずに、倒れてしまった。もはや、「不甲斐ない」などという問題じゃない。料理長たちに抱えられ、休憩室に横たわる俺は戦力外どころか、足を引っ張るに引っ張るだけの存在で、和泉さんの言葉に悔しさを噛み締めながらも頷くしかなかった。バイトとはいえ客商売、俺の振舞い1つが致命的なダメージにもなり得る、彼女の判断は最もだ。

 

 

牙を抜かれたオオカミが衰弱の一途を辿るなら、糧を失った俺もまた同じ、眩暈こそ治まったが、パイプ椅子に横たわる俺の耳はせわしなくノイズを拾う。生さえ揺れ動くような虚無の中、手首の傷を天井に翳すと、微かに祐太が浮かんだ。やはりアイツが居なければ、微かが消滅するより先に動き出さなければ、俺は確実に俺を失う、そう思った。

 

和泉さんや料理長に今日の一切を詫びると、俺は雪がチラチラ舞う薄暗い世界に身を投じた。最後の最後まで「明日は休みだしゆっくりしなさい」と慰められたのは大いに嘆かわしいが、今は立ち止まれない。

 

時刻は6時半、適当に時間を潰してアダルトショップの前で待つか。もし、売り専の方も出勤日ならば、客になり指名すればいい。褒められた手段じゃないかもしれないけど、アイツの本心が訊けるならどんな手でも打つさ。

 

 

「あら、拓斗ちゃんじゃない。仕事はもう終わったの?」

 

大通りに出るなり、まさかのキャサリンと鉢合わせた。態度こそ普段と変わらないが、彼女がどこまでの事情を知っているか不明な中じゃ、正直、言葉に迷う。「仕事」がアダルトショップを指すのか「un」を指すのかさえ分からないのだ。

 

「ええ、まあ…キャサリンはこれから仕事?」

「そうよ。子供の頃は雪にはしゃいだのに、今は「客足が遠のく」とか思っちゃう。年は取りたくないわね」

「俺も似たようなものだし…」

 

雪の話題は彼女の気遣いか、或いは、挨拶みたいなものか、いずれにしろ、祐太のことを尋ねても教えてはくれないだろう。そんな愛想笑いの最中、視界の奥に辛うじて映り込んだ人物に、俺は思わず「あっ!」と叫んだ。

 

「どうしたの?」

「ごめん、ちょっと急用!近々店行くから!」

 

キャサリンのキョトンとした表情を置き去りに、俺は全力でその人物の元へ走る。コンビニの軒下に佇む女は雨宿りみたいな格好だが、こっちにとっちゃ好都合、間違いない、祐太を責め立てた女だ。視線が彼女を鮮明に捉えると、向こうも俺の方に気付いたようで、その顔は驚きと狼狽に満ちていた。少なくとも「仲睦まじく祐太の隣に居た男」という認識はあるのだろう。

 

「君…こないだの子だよね?」

 

ハァハァ、と若干息を切らし、正面に立つと、彼女は嫌悪を露わにしながらもコクンと頷いた。こないだは遠目だったが、間近に見れば、高校生くらいの幼さがあり、なかなかの美人だ。白いマフラーは清純さを彷彿とさせるが、明らかにサイズの大きなベージュのコートはいささか不釣り合い…というより、恐らく男物だろう。

 

「何かご用でしょうか?」

 

冷め切った眼差しに刺々しい口調が突き刺さる。だが、こっちとしても後には退けず、俺は、自らの状況を明かし、こないだのやり取りについて問い質した。勿論、「あなたに関係ない」とか言われりゃそれまでだが、最後に放った非日常的な一言、その意味だけは何としても訊き出したい。

 

「聞き間違いかもしれない。だけど、俺にはそう聞こえた…[人殺し]って…」

「…あなたの耳は正確よ。確かにそう言ったし、現にあの男は人殺しだもの」

 

悪びれるどころか開き直った態度に、憤りが沸き上がり、俺は「軽々しくそういう言葉を口にするんじゃない」と、生活指導の体育教師みたいな台詞を吐いた。冗談か、何かの例えか、別の意味か、とにかく、祐太を人殺し扱いすることは、道具扱い以上の怒りを覚えたのだ。

 

 

だが、この女の言葉に嘘は無いのを俺はすぐに思い知ることになる。あまりにも最悪な形で。

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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