長編小説「生者の行進-Still alive-」 19~最良の朝~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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天使と悪魔は紙一重だ。

 

見る側、或いは見る角度などから、どちらかに傾くだけで、基本的には誰しもが両方を兼ね備えているのだと思う。別に「光と闇」とか「正義と悪」とか「白と黒」とかでもいいのだが、夢に現れた大樹の姿はまさに「天使と悪魔」、朧気ながらも形を成しているから。

 

 

「ん…ん。あれ…拓斗さん、もう起きたんですか?もしかして眠れなかったとか?」

 

 

大きな欠伸を掻き、目を擦る何とも可愛らしい姿を見下ろしながら、俺は「ああ。お前のいびきがうるさ過ぎてな」と呟いた。その途端、祐太は想像通り、目ん玉を開いてベッドから飛び起き、思わず笑いが込み上げる。

 

 

「冗談だ。割とすんなり寝れた」

「もう~。やめてくださいよ~。拓斗さんの冗談は冗談に聞こえないんですから~」

 

 

窓越しに降り注ぐ燦々の陽射しが床の一面を照らす。幾多の日常じゃそんな光景さえ重荷だったが、今日ばかりは最良の朝だ。無論、胸中に凪が訪れるわけではないが、両腕を伸ばしてベッドに転がる祐太の無垢さに、俺は思わず抱き付いた。股間もまた、それに呼応する。

 

 

「朝から元気ですね~。僕なんか全然です」

「俺より若いくせにだらしねえな。っていうか、お前、いつまで敬語を使うつもりだ?」

「う~ん。何か敬語の方がしっくりくると言うか…タメ口の方がいいですか?」

「どっちでもいい。好きにしろ」

 

 

俺の丸投げな台詞が気に喰わなかったのか、祐太は頬を膨らませ拗ねてみせたが、「どっか朝飯食いに行くか」と提案したら二つ返事でベッドを飛び出した。逞しいのか甘ったれなのか、全く…両極端な奴。

 

 

「でも、処理しなくていいんですか?」

 

 

下着越しに持続中の勃起を指差した祐太に、「処理」という表現が適切なのか考えながら、「朝飯の方が先」と素っ気なく答えると、若干の苦しさを抱えながらジーンズを履いた。正直なところ、中途半端に終わってしまった昨夜の一連が尾を引いているのだ。つくづく自分の臆病さに嫌気が差す。もしかしたら甘ったれは俺なのかもしれない。

 

マックで朝飯を済ませると、俺は祐太を連れ(っていうか、勝手について来たのだが)着替える為に一旦、自宅に戻った。昨日のアンダーシャツのまま出勤するのは肌が不快だし、祐太の服じゃサイズが合わない。

 

 

「だったら拓斗さんの服を何枚か僕の家に置くのはどうですか?服だけじゃなく歯ブラシとかも」

 

 

溜まりに溜まった衣類を洗濯機に放り込み酷使する間、俺は下着や予備の歯ブラシ、バスタオルなどを鞄に詰めた。修学旅行の前日みたいな光景だが、高揚という括りで見れば共通するのかもしれない。コイツの家に俺の私物が増え、俺の家にコイツの私物が増える。そんな今後の展開を浮かべながらの作業は実に捗り、洗濯物干しも終わると俺らは、ベッドに寝転がり、出勤までの余った時間に昨夜の続きを注ぐのだった。

 

 

 

「おはよう。あれ?今日は2人で来たの?」

「セブンイレブンのとこでバッタリ遭遇したんで」

 

 

「店長には内緒」、これは祐太の提案だが、別に異論は無かった。素直に白状すりゃ根掘り葉掘り訊かれるのは勿論、「俺も混ぜて」とか言い出しそうだし、店長なら実行に移し兼ねない。

 

 

「そうか。じゃあ今日もよろしく」

 

 

いつものように俺の尻を軽く撫でると、店長はいつものようにどこかへ消えていく。伏し目がちな裕也の挙動不審っぷりには不安を覚えたが、どうやら、やり過ごせたようだ。しかし…

 

 

「お前さ、もうちょっと普段通りに出来ないのか?」

「すみません…」

 

 

滑らかな斜面のように項垂れる祐太に笑みは微塵も無く、俺は肩をすくめ、「とりあえず仕事すっか」と促した。こんな調子じゃ店長にバレるのも時間の問題。だけど、その時はその時、今考えたところでどうにかなるものじゃない。珍しく楽観的になるのは、役目を担う祐太のどんよりとした雲を彷彿とさせる表情のせいだろう。自らの嘘の下手さに沈んでいるのか…

 

ま、嘘が上手よりかはマシな気もするが。

 

 

だが、その分析はあまりに甘過ぎたことを俺は後悔することになる。曇った表情はコイツなりの悲鳴だったのだから…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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