長編小説「生者の行進-Still alive-」 18~トライアングル~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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青々とした日々が蘇る。

 

瀬田大樹(せただいき)そして、鳥越玲奈(とりごえれな)とは幼稚園からずっと一緒の幼馴染の間柄だった。悪戯好きな大樹、男勝りの玲奈、心配性な俺、妙にバランスの取れた関係性に周囲は皆、トリオ的な扱いだった。

 

小学5年の林間学校じゃ、大樹に乗せられ、「冒険」と称して、山奥に入り遭難し掛け、3人揃って教師や親にこっぴどく叱られた。翌年の修学旅行も夜中に外に抜け出し、警官に補導され…以下同文。だけど、どんな時も大樹は「拓斗と玲奈は悪くない。俺が無理矢理連れ出した」って庇ってくれてさ…いつしか俺はそんな大樹に友達以上の好意を抱くようになった。

 

 

 

「なあ、拓斗。俺さ、玲奈に告白しようと思ってんだけどいいか?」

 

 

中学2年の下校途中、大樹は部活後の爽やかな汗を放出しながら遠慮がちに呟いた。サッカー部のエース候補と落ちこぼれ、周りは「どうして拓斗みたいなのと仲良くしてんだ?」と不思議がっていたが、それを聞く度に大樹は怒りを滲ませた。「拓斗の悪口は俺が許さねえ」とか何とか言ってさ。

 

 

「何で俺に訊くんだよ?」

「いやぁ、もしかして拓斗も玲奈の事…とか思っちゃってさ」

「ただの友達だ。告白なら勝手にしろよ」

 

 

恐らく、玲奈も大樹の事が好きだったのだろう。休み時間の会話や、「テニスがやりたい」とか言ってたくせにサッカー部のマネージャーになった事、大樹に対する視線、鈍感な大樹は気付かなかったみたいだが。

 

しかし、玲奈の真意を確かめられぬまま、大樹の初恋は無惨に砕け散った。親の仕事の都合で玲奈が海外に引っ越すことになったからだ。しかも、直前まで黙ってたもんだから大樹も俺も心の整理が付かないまま、玲奈は「きっと戻ってくる」なんて根拠のない言葉を残し、行ってしまった。空港の窓から飛行機を見送った後の大樹の表情は、今までに見たことのない悲哀に満ちて、懸命に涙を堪えるようだった。

 

隣で眺めるだけの無力さと、この腕に抱き寄せたい衝動、俺の中はそんな葛藤が渦を巻いていた…

 

 

 

 

「拓斗さん、眠れないんですか?」

「ああ、悪い。起こしちまったか?」

 

 

外気の冷たさに流離いながら一服する途中、背後から静かな声が響いた。咄嗟に煙草を消し、窓を閉めると、灯りの点いた部屋に、祐太の穏やかな笑みが浮かぶ。それは同時に青々の記憶が消え失せる瞬間でもあった。

 

 

「僕、ソファーで寝ますから、ベッド使ってください」

「そこまで気遣う必要は無い。夜行性なだけだ」

 

 

風呂から上がり、俺はベッドの上で絡み合った。不安気な俺を抱き寄せ、ポンポンと背中を叩く祐太はとても逞しく見え…だけど、その姿はまた、大樹のそれと重なり、沸き上がる感情に勃起は萎えた。どうやら重なりを覚えるのは逞しさを垣間見た瞬間らしい。青々の中、大樹と玲奈と居た頃が唯一の生の時間だったのかもしれない。

 

 

「さっきのこと、気にしてますか?僕は拓斗さんと居れたらそれだけで充分です。だから…」

 

 

優しい言葉を拒むように、俺は祐太を抱いた。この満ちた感覚は闇に一筋の光を照らした。だけど、虚ろさに揺れるのは失うことへの怖さ、だろうか?

 

 

本当は、玲奈を見送る大樹の隣、俺はほくそ笑んでいた。これでもう幼馴染と呼べるのは俺だけ、そう思うと独裁者にさえなった気がした。同じ高校への受験も決まっていたから尚更だ。明るい先行きを信じて決して疑わなかった。

 

その結果、親友且つ初恋の相手を俺は失った。最も無惨な形で…

 

 

「もう一服したら寝るから先にベッドに入ってろ」

「はーい」

 

 

灯りを消してベッドに横たわる祐太の姿を確認すると、俺は軽く首を振って煙草に火を点けた。夜風の冷たさは不安を煽るが、もちろん祐太に吐くわけにはいかない。あの瞬間の憎悪が、大樹に抱いた憎悪が、繰り返されるんじゃないか、なんて…さ。

 

ロクに味のしない煙草を携帯灰皿に投げ込み、俺は薄っすら笑う祐太の隣へ滑り込む。記憶にこびり付いた影を振り払うように、華奢な背中に腕を回し目を瞑る。

 

例え眠りが来なくても、この体温さえあれば俺の朝は平穏だ、そんなことを過ぎらせながら…

 

 

 

(続く)

 

 

 

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