有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

17話はこちらから

 

 

 

 

ミルクレープの層を眺めながら俺は当然の疑問を投げ掛けた。「物好き」と言われてしまえばそれまでだが、よりによって俺みたいなのをチョイスするとは…どうにも納得がいかない。

 

 

「フィーリングってやつです。それでは理由になりませんか?」

「どう考えても水と油だが…」

「そうかもしれません。だけど、僕の中に拓斗さんは侵入した」

「そんな覚えは無い」

「まあとにかく、ケーキ食べましょうよ。せっかく冷やしたのが台無しになります」

 

 

…色々とスルーされた気がするが、祐太の提案に異論は無かった。層を切り裂くようにフォークを刺すと俺は、既に半分ほど平らげた祐太に辟易しながら久し振りの甘ったるさを味わう。こういう機会でも無きゃ、死んでもケーキと遭遇しなかっただろう。

 

 

「付き合ったりとかはあるんですか?」

「あるように見えるか?」

「見えますよ。クールだし、ときには優しいし、無意識のツンデレは萌えます」

「優しくした覚えは無い」

 

 

フィルムに付着したクリームをフォークで掬う姿を前に、鼓動はさっきより遥かに速く、騒がしくなる。正直なところ、不安より緊張の方が先行して、どうにも落ち着かないのだ。終電までの2時間弱、その先に待つものなど、付き合いとやらの経験の無い俺にはさっぱり分からない。

 

 

「あ、そうだ!拓斗さんもシャワー浴びたらどうですか?何なら湯船に浸かって頂いても…」

「余計な気は回さなくていい」

 

 

…とは言ったものの、もし、セックスするとしたら、浴びた方が…いや、飛躍し過ぎか。ウリ専の道を選ばなかったことからしても、コイツは身持ちが固そうだし。けど、家に上げ、わざわざ引き留めたってのは…こういう類の混乱は歯痒いというか、何と言うか。

 

 

「あっ!紅茶を用意しようと思って忘れてました。すぐ用意しますね」

 

 

テーブルにトンと指先を付け立ち上がる祐太に、俺は思わず「待て」と呼び止めた。コイツの下心の有無は別にして、これからの事を思えば、見せないわけにはいかないだろう。立ち尽くす祐太に視線を向け、徐に、パーカー、カットソー、アンダーシャツを脱ぐ。段々と困惑を極めるその表情を確認しながら。そして、上半身裸になった俺は「痕跡だ」と呟き、背中を向けるのだった。

 

 

「大学の時にな、強姦されたことがある。そいつらに付けられた痣だ。鉄パイプで強打されてな、幸い、身体に異常は無かったが、痣だけはこうして残っている。お前がどう思おうが自由だが、俺はお前の期待には応えられない」

 

 

今の今まで誰に言う事も無く秘めてきたのにやけに饒舌な自分が不思議に思えた。もちろん、この過去は一部であり、最優先の秘め事は高校時代なのだが、それでは俺は妙に冷静だった。

 

 

「俺はずっと1人だった。これからもな」

 

 

祐太の表情を確認しないまま、俺は床に脱ぎ捨てたアンダーシャツを拾い上げた。行動と言葉の矛盾は期待と不安の天秤だろうか?それでも、結局のところ、いつだって俺は逃げ道を選ぶ。相手に拒まれる前に拒んでしまえばいい、シミと化した生き様はもう変えられないのだ。

 

真ん中に伸びた棒状の青黒い痣など、これ以上晒す必要は無いだろう。アンダーシャツを頭に被さった瞬間、鋭い熱が裸の背中に伝った。さっきより遥かに熱い体温が首元にも及ぶ。肩甲骨の辺りに滴る感触は…涙か?

 

 

「お前、泣いてんのか?別にお前が泣く必要は無い」

「…」

 

 

啜り泣きの音だけが広がる空間に抗う術は無く、アンダーシャツを首に引っ掛けたまま、涙の終りを待った。そして気付いた。俺はきっとこういうのを望んでいたのだ。「同情されたくない」などという戯言は同情を知る者の贅沢、知らない者は…切に願う。

 

 

「背中が濡れちまった。後でシャワー貸してくれよな」

 

 

過呼吸のような不安定な息を吐き出しながら、祐太は顔を埋めたまま何度も頷いた。アイツの面影などもはやどうだっていい。コイツは井ノ瀬祐太、それ以上でもそれ以下でも無いのだから…

 

しかし、祐太の涙の理由…いや、それ以前に、俺を選んだ本当の理由をこのときはまだ、知る由もなかった。

 

コイツもまた、想像も尽かない重い荷物を背負っていることなど…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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