有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

16話はこちらから

 

 

 

「正直、他の皆さんにはあまり良く思われてないみたいで…僕だけ安定した収入の入る…しかも身体を売らない仕事ですから…」

 

 

食後、熱い緑茶を飲みながら、他の入寮者について水を向けると、祐太は寂しげな薄い笑みを浮かべた。安定はしないが大きな収入を得られる可能性もあるウリ専と、安定した収入のショップ店員、コイツに悪意を抱くのは安定もしなければ大きな収入も得られない連中だろう。本当に稼いでいる奴はさっさと寮から出て行くのかもしれない。この環境は確かに素晴らしいが、結局、寮は寮だ。店長という他人名義の。

 

 

「お前、[エスコート]に入る気は無かったのか?当然、店長にも誘われたんだろ?」

「え、ええ。まあ…」

 

 

この場合の「誘われる」は2つの意味を併せ持つ。いや、俺は単純に「勧誘」の意味合いに使ったのだが、一気にトーンダウンした祐太は違う意味に受け取ったのだろう。[エスコート]の入店条件は1つのテストをクリアすること、店長と寝て、気に入られるかどうか。

 

無神経な発言だ。逆に俺に問い掛けられたら答えられないってのに…

 

 

「悪い。俺、皿洗いして帰るから」

「いいですよ、そんなの。拓斗さんはお客さんだし。どうか、ゆっくりしていってください、デザートにケーキも買ってあるんです。僕1人じゃ太っちゃう」

「…まあ、終電に間に合えば別にいいけど」

 

 

押し問答の末、2人で皿洗いを済ませると、祐太はシャワーを浴びにいった。一緒にどうかと誘われたのだが、頷ける筈も無い。正義が悪を成敗する、昔からのありきたりな刑事ドラマを眺めていると、ふと、過去が頭に過ぎった。救われると信じて疑わなかった卒業後の終わりなき地獄の記憶が。

 

 

「ちょっ!やめろ!やめろって!!」

「はぁ?お前、男なら誰でもいいんだろ?大学内じゃ専ら評判だぜ」

「せっかく地元から県をまたいだってのにご愁傷様」

「でも考えようによっちゃラッキーだろ?俺らの性処理が出来て…さ。ハハハハハハハハ」

 

 

誰かが俺の情報を大学に流した。コイツらの言う通り、県をまたぎ、誰も俺を知らない場所に来たってのに…新しい日常への期待、それだけが唯一の俺の救いだったってのに…

 

どうして居場所を失わなければならないのか…俺は何の罪を犯したというのか…

 

コイツらが正義なら俺は悪。だから俺は成敗されなきゃならない…コイツらの欲望が体内に侵入した瞬間、俺は、壊れた。

 

ひっそりと残りの人生を消化したい。その為にはここにやって来る他に無かった…

 

 

 

「た、拓斗さん…大丈夫ですか?」

 

 

祐太の狼狽を含んだ声が耳元に吹くと俺は夢から覚めるようにハッと顔を上げた。スウェット姿の祐太が隣に跪けば、刑事ドラマはとっくにエンドロールの途中だと気付く。もう一度「大丈夫ですか?」と声を掛けられ、一体、俺はどんな酷い顔をしているのだろう?って思った。

 

 

「何でもない。考え事をしていただけだ」

 

 

そんな言い分が通用しないことを即座に察知した俺は、乱れた髪を軽く振り、覚束ない足取りで立ち上がる。これ以上の不様を晒すのはどうにも耐えられないから。

 

 

「悪い。体調が優れないからもう帰る。飯、美味かった」

 

 

心の中で「ありがとな」と呟くと、複雑な表情を見せる祐太に構わず玄関へ急ぐ。さっさと帰って睡眠薬を飲む。例え眠りの訪れが遥か遠くであってもベッドに横たわりたい。1人という慣れた世界に留まるのが俺には相応しいのだ。

 

 

「待ってください!」

 

 

スニーカーの解けた紐を結び直す最中、背後からやたら騒々しい音が響いた。廊下を走る「バタバタ」は悲鳴にも聞こえ、俺の手は宙に一時停止する。耳を傾けなきゃいい、ただそれだけで日常に帰れるというのに、何故だか、ドアノブへ踏み切れない。

 

 

「拓斗さん、僕…」

 

 

その震えを帯びた声が何を意味するのか、今の俺にはさっぱり分からなかった。だが、言葉を放つように俺を抱き寄せる祐太の命知らずと言うべき行動に、胸の中が揺れたのは確かだ。両腕に包まれ若干高めの体温が身体を伝う。本能という昂りの目覚めを肌に感じながら、俺はもう一度解放への期待を抱く。

 

貪欲且つ傲慢な人間で在るが故に。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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