有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

127話はこちらから

 

 

 

 

翌朝のエバシンスホテルは異様な光景に包まれていた。

 

甲斐ハルの新作発表会はこれまでもニュース番組などでチラッと見たことはあったけど、かなりのマスコミが押し寄せ、俺らのような得体の知れないものは厳重な警備の下、ホテルに近付けやしない。

 

そこで俺は頼みの綱として遥に連絡を取った。彼女が俺らに協力する道理など欠片ほども無いけれど、彼女に賭ける他に道などありはしない。零は電源が切られたままだし、甲斐ハルも既にホテルにて準備を進めているらしく、携帯は一向に繋がらないのだ。

 

 

「今更何かしら?私、忙しいんだけど…」

 

 

そう言いながらもホテルの部屋に招き入れたことを思えば遥だってどこか迷いがあるのだろう。白のドレス姿はそんじょそこらの芸能人より艶やかで、鏡に向かったままの彼女に俺はついつい見惚れてしまう。隣に立つ一平も彼女の美しさに鼻を伸ばしているが、本性を知ればはたして…ナギ、石倉、カイルはそれぞれの仕事があるため、今は一平と2人だ。無論、3人とも俺らの方に留まるのを望んだけれど、こういうときだからこそ仕事に真摯に向き合わなければならない、俺じゃなく、一平が説得した。オーナー不在の今だからこそ…さ。

 

 

「昨日のボヤ騒ぎ、あなたたちの仕業じゃないでしょうね?もしそうなら私は市民の義務として警察に通報しなきゃならないわ」

「俺らじゃないさ。まあ、あれのおかげで運良く逃げられたけど」

 

 

我ながら大胆な嘘を付くものだ…しかし、あれは石倉の仕業…という意味ならあながち嘘ってわけでもないだろう。ただ、この場に石倉が居ないのは正解だったかもしれない、アイツなら遥のふてぶてしさに耐えかねて「俺がやった」とか言い出しそうだからな。

 

 

「1つ訊きたいんだ。君は零さんとの関係を…」

「知ってるわよ。あの人はお兄さん、それを知ったからこそ私は零さ…兄さんに協力しようと思ったんだもの」

 

 

遥がそれを知らされたのは甲斐ハルの日陰が零から俺に交替する少し前だった。そもそも甲斐ハルが日陰を替えたのは零にゴーストとしての本格的な仕事をさせたかったからであり、薄々、それを勘付いていた遥かに零は全てを話し、自らの計画に引き摺りこんだのだ。

 

 

「私ね、あの人がお兄さんだって聞いてもちっとも驚かなかった。あの人がお兄さんだったらいいのに…そんな憧れを抱いてたからかな」

「兄妹、通じ合うものがあったんだろうね」

 

 

俺はふと、妹の碧の事を思った。長い年月を経てようやく再会出来た兄妹も居れば、長い年月を共にしたのに離れ離れになった兄妹も居る。それでも…妹への想いは零に負けない自負がある。

 

すると、鏡越しに遥は俺の顔をジッと見据え、薄く笑った。心底を見抜いているかのような挑発に動揺しながらも俺は次の段階、説得に入った。あまり時間も残されてないことだし。

 

 

「ゴーストを公表したら今の暮らしは出来なくなる。申し訳ないが、君に甲斐ハルの後釜を継げるとは到底思えない」

「前に言ったでしょ?私は全てを破壊したいの。潰れるならそれも結構よ」

「お言葉ですが、零さんの復讐心とあなたの破壊願望によってブランドは勿論、このホテルで働く多くの人達が路頭に迷うことになります。人の人生を狂わせてまで果たさなければならないものでしょうか?」

 

 

一平の言葉に遥は顔を一瞬引き攣らせたものの、また元の笑みに戻り、手元のポーチからICレコーダーを取り出した。

 

 

「…零、あのバッグなんだけど、もう少し赤みを足してもらえないかしら?少し地味じゃない?」

「俺に任せるって言った割に慎重なんですね。ま、別にいいですけど」

「悪いわね」

「いえ、これもゴースト…日陰の仕事ですから…」

「ちょっと!ゴーストって言葉は口にしないで!」

 

 

…零と甲斐ハルの会話はそこで途切れた。正確には遥が停止ボタンを押してしまったのだが、どちらにせよ、この音声が証拠であることに変わりは無い。こういう類のものが存在するのは踏んでいたが改めて聞かされると背筋が凍り付く。

 

 

「これをパーティーの途中で流すの。あの女の狼狽する顔が見物だわ」

 

 

遥は不敵な笑みを浮かべると俺らにパーティーの招待券を渡し、さっさと出て行くように告げた。俺は説得を続けたかったが「警備員を呼ぶ」と言う彼女の脅しに一平は俺を連れ立ち、結局、ここでも何も出来ぬままパーティーまでの時間があと1時間ってところまで差し迫るのだった。

 

 

「とりあえずパーティー会場に行きましょう。招待券も貰ったわけだし」

「…そうするしかないか」

 

 

甲斐ハルは既にスタンバイに入っているだろう、これから最愛の娘と捨てた息子に復讐されるとも知らないで…

 

俺は「スーツで来てよかった」と、おどけながら最上階のパーティー会場へと向かうのだった…普段着じゃ完全に浮いた存在だっただろうから。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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