有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

126話はこちらから

 

 

 

零は小さな飲食店を営んでいた夫婦の元に産まれた。一人っ子で、夫婦は勿論、飲食店の従業員や客、近所の住人からも可愛がられる存在だったらしい。しかし、彼が小学校に上がったばかりの頃、生活を一変させる出来事があった。

 

 

「母親が駆け落ち?」

「ええ。零さんは連れていかなかったようです。離婚はあっさりと成立し、父親が親権を持ったのですが…」

 

 

父親は零が8歳の時に病気で亡くなり、彼はその後、父方の親戚中をたらい回しにされた。母親の駆け落ちのせいでどれだけ父親が負担を背負ったか知るだけに相当に疎まれ、肩身の狭い思いをしたそうだ。

 

 

「当然、零さんは母親を憎みました。憎み続けたまま、中学三年の時にオーナーと出会います」

 

 

中学生にもなると、零はロクに家に帰らず、毎晩のようにあのスラム街に姿を現しては麻雀やクラブにのめり込んでいた。勿論、そんな零の情報はあの大吹要を通じて街に知れ渡り、本来ならば追い出されるところをオーナーの計らいによって零はスラム街の立ち入りを許された。それだけじゃない、ナギやカイルを助けたときと同様に、「中学を卒業したらウチへ来なさい」と、日陰業にスカウトしたのだ。

 

しかも、零の「全身整形したい」という願望も叶えて…幼少期の零の写真を掲げた一平に皆の視線が集中すると、あまりの別人ぶりに溜息が漏れる。

 

 

「全身整形!?だよなぁ、完璧過ぎると思ったんだ」

「でも幼少期の頃も充分可愛くないですか?整形する必要ないでしょう?ハッハハー」

「多分、母親に似てるのが嫌だったんじゃない?オーナーならその辺の事情も汲んで費用ぐらいポンと出しそうだし」

「それはそうです。自分も出してもらってますから」

 

「けど…零さんの場合は皆さんとは事情が違います」

 

 

一平は妙な前置きを付けると、二杯目の珈琲を啜り、俺らの気を持たせた。勿体ぶった感にナギと石倉は苛々した表情を見せるが、こういうのは情報を持ったものが場を制す、俺らはただ待つしかない。

 

 

「零さんにとってオーナーは敵だったんですよ」

「敵?」

 

 

「訳わかんねー」と、零す石倉の隣で、ナギは頬杖を付き、「もしかして、母親と駆け落ちした愛人って…」と、推理を披露した。

 

 

「はい。その愛人は元々は母親の日陰、honeymoonのキャストだったんです。そして、母親というのが…」

「甲斐ハル…」

 

 

一平より先に俺は無意識的に呟き、周囲をざわつかせた。しかし、俺の呟きに一平は大きく頷くと「その通りです。やはり気付いてましたか?」と、周囲に更なる衝撃を被せる。

 

確証は何も無かった。だが、甲斐ハルがしきりに零の過去を知りたがっていたこと、甲斐ハルと初めて会った瞬間、零と同じ匂いを感じたこと、そして、零の狙いが単なる財産だとはどうしても思えなかったこと、それらから統合的に判断した結果だ。勿論、本気を込めて放った言葉では無かったのだが、事実だと聞かされて妙に納得してしまう俺も居る。石倉なんか口をあんぐりさせて絶句状態だってのにさ。

 

 

「零さんは母親、甲斐ハルへの復讐のために日陰になった。これが僕の出した結論です。オーナーも否定はしなかった」

 

 

一平は昨日、調べ上げた全ての裏を取るために、オーナーに同じ事を話したらしい。オーナーは顔色一つ変えずに「よく調べたな」と、認めるような発言をして姿を消した。さすがにその理由までは一平も見当も付かないようだが、甲斐ハルが母親ならば駆け落ちの相手は現在の旦那、2人を引き合わせたのがオーナー…

 

 

「そして、甲斐ハルの娘、遥は…零さんの妹。異父兄妹ってことになります」

「まさか、零さん…妹と…」

 

 

ワイドショー好きな主婦みたいな声を上げるナギに俺は煙たい顔をしながら「遥が事情を知ってる可能性もある」と言い放った。

 

しかし…

 

 

「でもよぉ、事情を知らねー可能性もあるんじゃね?」

「そうだよ。慧は楽観的過ぎるね」

 

 

…こんな時だけ意気投合するナギと石倉に辟易しながらも、俺は「2人が関係を既に結んだ可能性」を考えずにはいられなかった。あの小さなオンボロアパートでわざわざ密会してたのだ、ナギたちの言う事の方が最もな気がしてならない。

 

 

「それより、零さんをどうやって止めるか、考えるべきです」

「ボヤ騒ぎがあったんだからパーティー自体、中止になんないのか?」

「仮になったとしても零さんなら違う方法を取るでしょ?退店までしちゃったわけだし…」

 

 

不毛な議論は暫くの間、続いた。皆、零、もしくは遥が心変わりしない限り、彼らを止める術は無いって分かっていながらも互いに意見を交換しては相殺し合う。不毛というより悪足掻きってとこか。

 

 

そして、気付けば夜が更け、日付は明日へ替わろうとしていた。

 

零にとっては「全てが始まる日」甲斐ハルにとっては「全てが終わる日」ならば俺らにとっては?

 

結局、答えを見出せないまま時は刻一刻と零の筋書きの道へと流されてゆくのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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