有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

125話はこちらから

 

 

 

「地下から煙が!早くお逃げください!!」

 

 

一つ一つの部屋を叩いて回り、避難を呼び掛ける従業員たちを前にまさか留まるわけにもいかず、零は「くそっ!」と、嗚咽混じりの言葉を吐きながら俺を背負ってホテルから脱出した。身体が麻痺したままの俺を見捨てない零の姿に先程までの金の亡者の気配は無く、俺は彼の目的が本当に財産なのかどうか、客たちの悲鳴や怒号に紛れて首を傾げる。

 

そして、駐車場のフェンスに俺をもたれ掛からせると、零は俺の制止も無視してホテルの近くへ足早に駆けて行く。だが、確かにホテルから白い煙が上がってはいるものの火の気は感じられず、どうやらボヤのようだ。

 

 

消防車が駆け付け、辺りが物々しい雰囲気になっても俺がある程度落ち着いて居られたのはボヤだという確証が俺の中にあったからだと思う。零に捕まっている間に火事とかあまりにタイミングが良過ぎだ。

実際、その確証に狂いは無く、消防車が呆気なく帰る頃、俺の肩を何者かが叩いた。

 

 

「ナギ!」

「全く…君って奴は…」

 

 

ボヤってことでどこか残念そうにこの場を離れていく野次馬たちとは違って背後に立つナギとカイルの表情は険しかった。2人に両腕を掴まれて何とか立ち上がった俺は辺りを見渡してみたが、零の姿などもうどこにもなく、ホテルの支配人が宿泊客に謝罪する声だけが所狭しと響いていた。すると、前から一平が駆けて来るのが見え、俺はこのボヤ騒ぎが彼らの仕業であることを知った。石倉が発煙筒のようなものを地下の倉庫から放出したらしい。

 

 

「零さんはどこにも居なかった。もうこの辺りは引き払ってるだろうね」

「まあ、この裏切り者を捕獲出来ただけでもよかったんじゃない?」

 

ナギが俺の右脇を抓りながら気怠そうに言った。

 

「裏切り者って俺の事かよ?」

「何も言わずに1人で零さんのとこに行くなんて自殺行為。心配したんだからね!」

 

声を震わせ、また俺の右脇を抓るナギは少し照れたようにそっぽを向いた。すると、カイルが「無事でよかった。ハッハハー」と、いつも通りの穏やかな笑顔を見せ、それにつられて俺らも笑った。

 

勿論、のんびりしてる暇など無いのだが、何せ話があまりにも入り組んでいる、俺らは近くの喫茶店で石倉が戻るのを待ちながら情報を整理することにした。

 

 

「オーナーと連絡が付かない?」

「うん。事務所はキョウコ三姉妹が総出の状態、だけど、こんな時にオーナーは何やってんだか…」

「零さんの事はまだ他の管轄の人間には知られていませんが、それも時間の問題でしょう」

 

 

零の退店は彼の一方的な電話連絡によるものであり、正式に決まったわけじゃないが、顧客に連絡済みとなればキョウコとしても対応に追われているのだろう。

 

 

「皆、俺はあの人を止めたい。日陰の人間として、仲間として、あの人のやろうとしていることを見逃すわけにはいかないんだ」

 

「当たり前でしょ。ここに居る皆、同じだよ」

「だからこそ危険を承知で慧を助けたんですから。ハッハハー」

「日陰の監視員としての責任もありますから。務めを果たさなくては」

 

 

それぞれの覚悟に胸を熱くさせると、背後から「俺の存在忘れてねーか?」という聞き覚えのあるやけにキザな声が響いた。

 

「石倉、無事だったのか?」

「当然。クルサバの仕事じゃもっと危ねえ橋をいくつも渡ってきてんだ」

 

ボヤ騒ぎだって充分に危ない橋だろうに…ケロリと珈琲を飲む干す石倉に俺は笑みを零した。つい昨日まで、互いの腹の内を疑い合っていた間柄だったが、今は[honeymoon]の危機に立ち上がる同志、感覚としては妙にくすぐったいけど、頼もしい限りだとも思う。

 

 

「全員揃ったところでちょっといいですか?」

 

 

感慨に耽る俺たちの空気に一平は澱(よど)みを吹き込んだ。彼が語ったのは零の生い立ち、誰もがそうであったように零もまた壮絶な人生を辿る1人だったのだ…

 

 

(続く)

 

 

 

 

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