有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

 

84話はこちらから

 

 

 

…俺の家は緊急避難場所じゃないっつーの!!

 

 

居間のソファに横たわりながら俺は何度付いたか分からない溜息をまた付く。寝室から漏れる一平のいびきに殺意に近いものを抱きながら俺は「芸人の女性関係を暴く」などというどうでもいい企画のバラエティを虚ろな目で鑑賞する。「本気でヤバいネタ」とか言っちゃってるが、そんなものを信用する視聴者など今の時代はごく僅かだ。ま、テレビの未来より俺の未来を憂う方が先だが…

 

 

瑛斗くんとナギが帰って来たのは9時頃、ついでにカイルもやって来て何事かと思ったが、何てことは無い、一平の歓迎会の為にケーキやらシャンパンやらを各々が分担したのだ。入寮が突然だったことに加え、真里を始め、殆どの客を失った俺に対する慰め会の意味合いもあったがために何も知らされなかったのだ。

 

とはいえ、石倉の来訪については誰も知らぬ存ぜぬ、そこは謎が残るところだが、嬉し泣きの姿を見せる一平の手前、それ以上の追及は出来ぬまま俺らはさっきまで歓迎会と慰め会に興じた。って、慰め会とかせめて歓迎会とは別にやってもらいたいものだ、惨め以外の心境にならないってんだよ…

 

しかも、案の定、カイルが「ここは事故物件なのでーす。ハッハハー」なんて言ってしまったもんだから一平が「1人で寝るのが怖い」とかビビっちゃって…まあ、俺も同じだったから文句を言えた立場じゃないが

「ベッドが狭い」のを理由に居間のソファに寝させられるのはさすがにどうかと思う。

 

 

一平だって石倉みたいな裏があるかもしれないってのにさ…

 

 

バラエティが終わりテレビショッピングが始まる頃、ナギから「ちょっと話さない?」と、メールが送られ、俺は指定された通り、エレベーターからマンションの屋上に向かった。色々あり過ぎて寝付けなかった俺としては嬉しいような怖いような複雑な胸中だ。

 

 

思えばひと月以上住んでるってのに屋上に来たのは初めてのことだ。生温かい夜風は心地良さとは違うが、所々に灯りの点いた街をフェンス越しに見下ろすのは悪くない。

 

 

「来たんだ。来ないかと思ってた」

「お前が呼んだくせに」

 

 

ウッドチェアにもたれ掛かるナギの隣に座った俺は「寝付けなかったから来ただけ、勘違いすんな」と、先制攻撃を浴びせ、ウッドデッキに頬を乗せた。今日ほど疲労感を味わった日は無いかもしれない。あの地獄ショーの時だって疲弊はしたが、この疲労感とはまた別物だ。

 

 

「石倉から色々聞かされたんでしょ?歓迎会のケーキを買いに行く途中でバッタリ会ってさ、得意気に話してたよ」

「お前は前から知ってたのか?アイツのこと」

「まあね。というか、向こうが知ってた。俺も日陰になる前にクルサバの勧誘を受けたからさ」

 

 

…それはつまり、ナギの過去もまた石倉の脳内にインプットされてるということだ。俺は断片的にしか知らないがあの男なら隅から隅まで把握しているのだろう。誰だって知られたくない過去がある、それを振り翳して手玉に取る石倉のやり方はやはり間違いだ。

 

 

「それより矢代豪太の事だけど…彼が死んだのは事実だよ」

「えっ?」

「組員の中に知り合いが居てさ教えてくれたんだ。何でも矢代豪太はサンデーファイナンスの金庫から金を盗んで逃げようとしたらしい。組を抜けるのを許してもらえず強行突破に及んだんだろうね」

「それって…」

「さあ、それから先は分からない」

 

 

気遣いのつもりか「殺された」という言葉を封じるナギに俺は少しだけ感謝の念を抱いた。しかし、記事には金についての一切が記載されてなかったのを踏まえるとその可能性は限りなくクロに近い。

 

 

「ま、他人の死なんか関わらないのが一番。それにさ、人生詰んでたんでしょ?早く終われてよかったんじゃない?」

「ナギ…お前…」

 

 

怒りのあまり、声が震えた。あっけらかんと世間話の如く矢代豪太の話題を葬ろうとするナギの胸倉を俺は半ば無意識的に掴んだ。

 

だが、ナギも負けてはおらず…

 

 

「お前…もういっぺん言ってみろ!!」

「ああ!何度でも言ってやるよ!他人の死にいちいち関わってちゃこの世界じゃ生きれない!君のそういう半端さが脅威なんだよ!!」

 

 

「脅威」と言われた瞬間、全ての力が抜け、俺はコンクリートの地面に膝を付いた。

 

 

「君はいいよね、家族が居てさ、ここが無くなっちゃっても母親と妹の元に帰ればいいもんね…だけど、俺は…他の奴らだってここしか居場所が無いんだ!君、責任取れる?…取れないでしょ?なら、大人しくしてろよ!頼むからさぁ…」

 

 

指先に触れる湿った砂を軽く抓み風へ飛ばしてやると、「俺だって…帰る場所は無い」そう言って俺は仁王立ちするナギを見上げた。あらゆる混乱のせいってのもあるが、矢代豪太を簡単に切り捨てた怒りも含まれ、暫くの間、俺らは睨み合いを続けるのだった。

 

 

…だが、頭の中じゃ分かってる。あの突き刺さるような視線に怯えて帰宅したからよかったものの、もし、それがなければ俺はきっと現場に向かい…母さんと妹の姿を一目見ようと車を走らせただろう。そういう意味では視線に救われたのかもしれない。

 

 

救われた?…その言葉が脳裏に過ぎったとき、俺の中にある仮説が芽生えた。確証は無いが、そうとしか考えられない。

 

 

「なあ、ナギ」

「…何?」

 

 

俺は指先の砂埃を軽く払うとフェンスの向こう側、事務所のある方向に目を向けて立ち上がった。

 

 

「石倉が何故、あれだけの情報を俺に与えたのか不思議で仕方なかった。だけど、理屈はこないだと同じ、違うか?」

「…」

「俺が脅威なら、これだけ自由に動き回らせやしない。俺は…いや、俺らはずっと監視されている。そうだろ?」

「監視って誰に?」

 

 

ナギの視線は鋭いが、あの視線とは違う、別の人間のものだ。俺は生温かな風に手を伸ばすと「街にだよ」って呟いた。

 

 

「石倉はお前の命令に従ったんだ。矢代豪太の死を知った俺がどう動くかを見極める為、こないだの偽面接みたく俺を試した。そうだろ?」

「何で俺だって決め付けるんだよ?」

「さっきの言葉。「母親と妹」って言ったろ?どうして「父親」が居ないことを知っている?…まあ、正確には失踪だけど、俺はここに来てから「父親」の話などしていない」

 

 

俺の追及にナギは暫く唇を噛み締めて睨むだけだったが、風の勢いが強くなる頃、観念したように「ご名答」と、頷いた。

 

それはまるで解いてもらうのを待っていたみたいな穏やかな顔だった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

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