有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

83話はこちらから

 

 

 

 

 

「鏑城の河川敷に男性の遺体。水死か?」

 

 

 

カラオケボックスを後にする頃、日はすっかり暮れ落ちて、俺は繫華街へ向かう人の波に背を向けてコインパーキングに戻った。だが、石倉の最後の言葉の破壊力を前に発進出来る筈も無く、俺はスマートフォンに手を伸ばし、ネットニュースを片っ端から覗いた。石倉は「死んだ」とだけ告げて帰ってしまったため、簡単に探し当てられるか少々不安だったが、ものの数分の内に俺は1つの記事に辿り着いた。

 

 

鏑城(かぶらぎ)と言えば闇金業者「サンデーファイナンス」の本社が在り、矢代豪太の取立ての管轄地区だ。実家も勿論、その管轄内に位置しており、鏑城は隣町に当たる。記事を読み進めると発見されたのは昨夜の11時を回った頃、犬を散歩中の老人が遺体を発見し通報。所持品は無く、年齢は50代の上下ジャージ姿、頬に傷はあるが死因との関係は不明、そして…身元も不明…警察は事故と事件の両面から捜査を開始…

 

 

50代、ジャージ、発見された場所が鏑城、これらが指し示すのは確かに矢代豪太だ。しかし…これだけじゃ完全にそうとは言い切れない。

 

 

「まさか…まさかな…」

 

 

念仏のように唱えても、より確信に近付く気がして俺は両手で顔を覆うと、こんなときに限って流れない涙に自らの変化を知った。矢代豪太が死んだかもしれないというのに思った以上に俺はどこか落ち着いており、目先の感情よりもこれからの問題が脳内を渦巻く。絶望への耐性が付いたのか?もし、そうなら…きっとこれからの俺にとって喜ばしいことなのだろう。感情に狂う人間は生きてゆけない世界なのだから。

 

 

しかし、仮に遺体が矢代豪太だとしたらそれは本当に「事故」なのだろうか?

 

 

いや、前にショッピングモールで会った時、矢代豪太の言動はいつもと違った。もう二度と会えないみたいな口振り…ま、それは昔っからだったため気には留めなかったが、今思えばやけに真剣な口調だったような…だとすれば「事故」じゃない…誰かに…殺された?

 

 

現場くらいは見に行っても…だが、過去との繋がりの一切を断つのが店のルール、それに…家の傍を通るのだ、妙な衝動を抑え切れる自信など無い…指先で顎を擦りながら思考に耽っていると、俺はふと誰かの視線を感じて、思わず周囲を見渡した。しかし、繫華街へと続く道、それぞれに急ぐ群集の姿があり、視線の正体を知ることは出来ない。それでも敵意か憎悪か凄まじい視線が向けられているのは確か、俺は3回ほど深呼吸すると車を発進させるのだった…

 

 

発進させて暫くの間はまだ殺気立ったものを感じたが、裏道に入り、大きく遠回りしてマンションに着く頃にはその気配の一切は消え去っていた。気のせいじゃない、スラム街は鈍感な神経さえ過敏にする脅威があり、俺の神経も強制的に尖ったのだ。

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

「…何で君がここにいる?」

 

 

俺を出迎えたのは瑛斗くんでもナギでも無く、昼間に喫茶店で出会った新人の一平だった。驚きのあまり逆に冷静になる俺に対し、一平は「実は今日からここの寮に住むんです」と、無邪気に笑った。

 

 

「瑛斗さんが用事があるとのことなので留守番を頼まれました」

「留守番って…ここ、俺ん家なんだけど」

 

 

…もうプライベートも何もあったもんじゃない、俺の家は完全な溜まり場じゃねーか。ま、今さら1人増えるくらい大して困るってもんでもないが。

 

 

「すみません。慧さんなら色々親切に教えてくれるってナギさんに言われたもので…」

「ナギに?」

「はい。1時間くらい前に仕事が終わって、事前に場所は聞いてたので1人でここに来たらナギさんと瑛斗さんがいらっしゃって…でも、お2人とも出掛けられるとのことだったので…すみません」

 

 

必要以上に謝られても困るのだが、俺は一平を居間に残し、とりあえず着替えようと寝室に籠った。1時間前ならちょうど石倉がカラオケボックスを後にした時間だ。

 

 

しかし…瑛斗くんなら普段は出掛ける際に電話かメールで知らせてくる、それに、一平が来ているにも関わらず俺に伝えず2人で出掛けたってのも少々不可解である。

 

 

不可解と言えば、石倉がエントランスホールで俺を待っていたのもそうだ。セキュリティ万全のマンション内、エントランスホールに入るのも内側から誰かがロックを解除しなければならない、ならば、一体誰が?あの時間ならナギはまだ仕事中だったはず、だとすれば瑛斗くんかカイル…まあ、石倉のことだし、ここの鍵をどうにか入手していたとしても驚く話じゃないが、俺の中で何かが引っ掛かる…

 

 

「あの…食事、どうされます?瑛斗さんが作ったカレーがあるんですけど…」

「ああ、じゃ、食おうかな。一緒に食べようぜ」

「はい!」

 

 

「一緒に食べようぜ」の一言によって不安げな一平の表情は爽やかに晴れ渡り、その和みは束の間の休息を俺に促した。考える事があり過ぎて何から手を付けていいのか、さっぱりだが、今は空腹を満たすのが最優先だ。

 

 

「おっ!美味そう!!よし、乾杯しよう、一平くん、お酒は?」

「すみません。僕、飲めないんですよ。それから「一平」で構わないです」

「了解。じゃあ、ジュースで乾杯だな、俺しか居ないけど一平の歓迎会だ」

「歓迎会ですか?そういうの初めてなんで嬉しいです」

 

 

笑うとクシャっと面白いくらい顔のパーツが中心に寄る羽田一平を相手に俺はここの生活や日陰業について実に饒舌になった。

 

勿論、「表面上」の話だ。目の前の純朴そうな青年だって腹にとんでもない爆弾を抱えているかもしれない。今までの経験がそういった警戒心を呼ぶのだ。

 

この歓迎会の最中にも黒い陰謀は動きを止めるどころか、更に加速度を上げているはずだ、だが、謎解きにはまだパーツが足りない、俺に出来るのは平静を装い、静観することだけ。

 

 

…それに、目を向けてしまえば限りなく死亡に近い矢代豪太への追憶が襲い掛かる。長く続かなくともせめて一平の前では感情を誤魔化したい、思えば思うほど、俺はより饒舌になるのだった。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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