有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

80話はこちらから

 

 

 

「アイツも日陰なんすか!?」

「昨日入店の新人なんだが、極度の人見知りとあってまだ客の前には出せない。まずは人に慣れさせるため、ここに置いてもらっている。だが…あの通り、ミス続きだからな…」

 

 

零が指差した方向に広がるには食器を下げる際に割ってしまったコップの後始末に勤しむあの気弱そうなウェイターの姿…顔の童顔さはナギと似ており、決して悪くない外見だが、それだけに残念っぷりは痛々しい、なんせ俺が来店してコップは3つ、皿は2つ割り、レジを担当すれば釣り銭の額を毎度毎度間違える、零が間に入らなければガラの悪い客たちは暴れ出したかもしれない。

 

 

「全く…オーナーも何を考えてんのか…」

 

 

愚痴を零す零ってのも非常に貴重な光景だ、ま、彼の教育係を任された立場から考えれば溜息も吐きたくなるだろうけど…

 

 

それはともかく、客が全て帰った昼下がりの喫茶店というのは何とも異様な静寂だ。勿論、どちらかと言えば喫茶店は静寂に値するのだろうけど、客が誰も居ない状況が異様さを後押ししているのだろう。2時から5時までは店を閉め、夜はバーとして営業するらしい。

 

 

「けど、零さんって意外と面倒見がいいんですね。一緒に働くとか意外過ぎます」

 

「ここの店主はオーナーの知人であると同時にここら一帯を取り仕切る大物だ、好意に甘えるだけじゃなく、貢献しておかないとな」

 

「あの爺さん、そんなに偉いんすか!?」

 

 

店を閉める時に軽く挨拶をした店主の爺さん…もう70は越えているだろう。温厚そうな普通の人に見えたけど、よくよく考えりゃ、普通の人がこんな無法地帯に店を構える筈も無い…

さっきの「その筋」の客たちが爺さんには愛想よく声を掛けていたのもそういう事情なら納得だ。

 

 

「それより、石倉の件だが…」

「絶対アイツなんすよ。だってタイミングが良過ぎるじゃないっすか!」

 

 

零が本題に水を向けると俺は思い出したように(忘れていたわけじゃないのだが)石倉のことを訴え掛けた。

「個別に話を訊く」という零の提案に俺らは渋々頷いたためアイツはもうとっくに居ないのだ。まあ、出来れば俺の目の前で糾弾してほしかったんだけど…

 

 

 

「タイミングに関しては同じ意見だ」

「ですよねー。ただ…どうやって情報を知り得たかっていう…」

 

 

もしかしたら俺の服かバッグに盗聴器とか付けられてるんじゃないか?そう思ってバッグに手を伸ばした瞬間、ビシャッ!と、勢いよく顔に液体が掛かった。零がコップの水をぶっ掛けたのだ。

 

 

「ちょっ!何するんすか!?」

 

「思い上がりも甚だしい。自分の力不足を棚に上げて全てを他人のせいにするのか?」

 

「違います!俺は!!」

 

 

頭に一気に血が上った俺はテーブルをバンッ!と、叩き、鋭い視線を零に向けた。しかし…

 

 

「ふざけるな!1人で大丈夫だから日陰にならせてくれ、と頼んだのはお前だ!俺はお前という人間を信頼して引き継がせた、お前は「責任」の重さを何ら分かっちゃいない!そんな奴はここには要らない!今すぐ辞めてしまえ!」

「零さん…」

 

 

胸倉を掴まれ、床に叩き付けられた俺は痛みより恐怖の方が勝って身体が起き上がるのを拒んだ。零が初めて俺に見せた本気の怒りを前に全ての細胞が震えているような感覚を抱く。その険しい表情はまるで般若だ。

 

 

…しかし、零の言葉は真っ当だ。石倉、或いは他の誰かが情報を流したとしても、それで壊れてしまったのならば真里との関係性は信頼関係と呼べるものではない。俺が勝手に高を括っていただけなのだ。実際、馴れ合いのままでいい、とか思っていた俺の傲慢さが招いた結果なのだろう。

 

 

「慧、事態はお前が思っているより深刻だ」

「えっ?」

「お前はお前がすべきことをやれ。俺は俺のすべきことをやる」

「零さん!」

 

 

呼び止める声も虚しく、謎な言葉を残して零は足早に店を出て行き、俺は新人ウェイターと共に静寂の中に取り残された。

 

 

「大丈夫ですか?どうぞ使ってください」

「あ、ありがとう」

 

 

「羽田一平」と名乗った新人は飾り気の無い自然な笑みを浮かべてタオルを渡してくれた。なるほどね、この誠実そうな感じは確かに日陰向きだと思う、少なくとも俺よりは断然に向いている…

 

 

 

それから暫くしてキョウコから着信があり、俺は零の「事態は深刻」の意味がようやく呑み込めた。先週、新たに契約した2人、そして、あの上村夫妻が契約破棄を言い渡してきたのだ。

 

 

「慧さんの悪評が流れているようです。何かあれば一気に拡散されるのがこの世界ですから」

 

 

悪評、拡散…誰の仕業か?など零に一喝された今の俺にはどうでもよかった。結局は俺の思い上がりがもたらした結果だ。

 

だが、キョウコが最後に放った言葉が俺を「ある場所」へと導く。微かだけど確かな一筋の光を目指して、俺は羽田一平に礼を言うと、早々に喫茶店を後にするのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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