有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

79話はこちらから

 

 

 

冷房が若干効き過ぎな喫茶店、だが、外の猛暑を思えばここはまさしくオアシスであり、俺は「生き返った」と、大袈裟な台詞を胸の中で吐いた。

 

 

…ただし、コイツの存在が在る限り、本当の癒しは訪れない。

 

 

「ランチのAセット、飲み物はアイスコーヒー。慧は何にする?」

「…俺はアイスコーヒーだけでいい」

「何だ?遠慮してんのか?せっかく俺が奢ってやるっつってんのに」

 

 

お前なんか、死んでも奢られたくねーよ、俺はそう言ってやりたい衝動をなんとか呑み込むと、ランチのBセットをオーダーした。

 

 

「あ、会計は別なんで」

「は、はい…失礼します…」

 

 

あどけない顔立ちのウェイターは上ずった声を店内に響かせ、逃げるように厨房へ駆けていった。俺らの殺伐を察知したのだろうか?それとも周囲に座るガラの悪い客の面々にビビってるのか?

 

しかし、この辺りはカタギっぽい人間の方が珍しいくらいだし、もし、後者の理由ならばさっさと辞めるのが身の為だ。ま、俺みたく慣れるどころかすっかり染まってしまうパターンもあるけど…

 

 

「残念だったな、大口の顧客を失って。まあ、慧ならすぐ新規の客が付くだろ?平気で人の客を奪えるくらいだもんな」

 

 

ヘラヘラした口調に嫌味ったらしい台詞、俺は眉間に皺を寄せながらも、こういう相手は冷静に対処すべきだとグッと堪える。眉間に皺が寄るのは…仕方ない。

 

 

「真里に情報流したのは石倉さんだよね?客を奪われたから奪い返すって寸法?卑怯な手段しか使えないのって自分に自信が無いからですよね?…憐れな人」

 

「は!?何言ってんのかさっぱりなんだけど。被害妄想が過ぎるんじゃね?意味不明」

 

 

…まあ、素直に「俺の仕業」などと言う奴なら最初っからこんな手段は使わないよな、普通。メニューに目を通しながら次の台詞を考えていると、今度は石倉が攻撃…或いは言い訳を仕掛けてきた。

 

 

「小久保真里は前に零さんに紹介してもらったことがある。ただ…あの人って特殊な性癖だろ?肌が合わなくてそれっきりだったんだけど、先週電話が掛かってきてさ。お前を切るから日陰になってくれないか、って」

 

「肌が合わないんじゃないのか?」

 

「相応しい奴が見付かるまでの期間限定だ。それくらいお前を切りたくてたまらなかったんだろうな。契約破棄は違約金も発生するってのにさ…」

 

 

見え透いた嘘を…と、思ったがこちらとしても石倉の仕業だという物的証拠があるわけじゃない、だけど、上村夫妻のプレイの内容まで知り得る術が見付からない限り、これは迷宮入りだ。かといって、事情を話さなきゃならないのを思えば誰かに手伝ってもらうわけにもいかないし…

 

 

「それより、小久保真里の情報を訊かせてくれよ。俺さ、こう見えてパソコンだのスマホだの機械系がダメなんだよ」

 

 

俺は少し迷ったが、周囲の客に目をやって「ここじゃ顧客情報は話せない」と、もっともらしい答えを述べた。こんな奴に何で情報を訊かせてやらなきゃいけねーんだ、と、思いつつも、日陰じゃなくなった俺が真里に出来る精一杯はそれかもしれない…そんなジレンマが脳内を駆け巡る。期間限定が本当だとしても日陰を石倉が引き継いだことに変わりは無い、ならば…

 

 

「俺が教えてやる」

 

 

突然、聞き慣れた声が響いて俺らはシンクロしたように周囲を見渡した。しかし、声の主と思わしき男の姿はどこにもなく、さっきのウェイターが黙々とランチセットをテーブルの上に…って…

 

 

「「零さん!!」」

 

 

格好が同じなので気付くのにタイムラグが発生したがそのウェイターこそが零だった。あの気弱そうなウェイターは何か失敗したらしく厨房から「すみません!すみません!」って声だけがけたたましく響き渡る。

 

 

「奇遇だな、ちょっとワケありで手伝ってんだ」

 

 

…奇遇で済むことじゃないと思うけど。

 

俺の視線が不意に石倉を捉えると彼もまた驚愕の表情を浮かべこちらを見ている。さすがに石倉もここに零が居て、しかも働いているとは予想だにしなかったのだろう。

 

神出鬼没…っていうか、ここまでくればスパイの領域である。

 

 

「もう少ししたら休憩だ。とりあえず冷めない内に食っとけ」

「「…は、はい」」

 

 

本来ならば石倉とのシンクロなど不本意なのだが、混乱に陥るしかない今の俺からすりゃ、そんなのはどうでもよくて、他の客に呼ばれた零が離れるのを見届けると、俺らは再び目を合わせ、それぞれのランチセットに手を付けるのだった…

 

厨房からはしきりに「すみません!」が鳴り響くが、それも俺にとっては鳥の囀りみたいなBGMで、五感が麻痺したようにランチセットの味さえ朧気なものだ…

 

 

(続く)

 

 

 

 

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