有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


テーマ:

 

 

 

前回の話はこちら

 

78話はこちらから

 

 

 

「石倉純ですよ!絶対にアイツが情報を流したとしか思えません!!」

 

 

近くのテーブルを思いっ切り叩いてもキョウコはパソコンから目を離すことも無く、涼しい顔で「証拠はありますか?」などと言ってのけ、俺に虚しく残るのは拳の痛み…

 

全く…人が真剣に訴えてるってのに。大体、俺の訴えが事実ならば規約違反どころの話じゃ済まない、日陰が情報を流出してる、なんてさ、店の存続に関わる由々しき事態だ。俺はオーナーの椅子に腰を下ろすと、やさぐれた感丸出しで頬杖を付いた。

 

 

…あれから、真里には散々罵詈雑言を浴びせられビンタも2発喰らった、その挙句の果てが契約破棄。つまり、俺はもう真里の日陰では無くなったわけである。

 

そりゃ、俺だって「寝取られ好き」という性癖は理解に苦しむところだが、それでも「受け入れる」のが日陰の仕事、選り好み出来る立場でも無いしさ、その辺は真里だってよく分かっているはずだ。だとすれば「haru kai」に…正確にはデザイナー甲斐ハルに対する憎悪が飛び火したのか?

 

けれど、何故に真里は情報を知り得たのか、その疑問は俺のちっぽけな脳味噌じゃ可能性さえ浮かばない、石倉純が流したとしてもキョウコの言う通り、証拠も無ければアイツだってそこまで細かい内容を知る術は無いのだ。

 

 

「慧さん、人を疑う前にご自身を見つめ直されたらいかがですか?」

「えっ?」

 

 

…それはあまりにも唐突であり、あまりにも意外な言葉だった。キョウコはパソコンから俺に視線を向けるなり「こういうのは私から申し上げることではないのですが…」と、妙な前置きを付けて更に意外な言葉を吐くのだった。

 

 

「小久保真里様から先週ご連絡がありました。日陰を替えてほしい、と」

「!」

「苦手とする電車に無理矢理乗らされ、行き先や食事も勝手に決められ、おまけに人の過去を根掘り葉掘り探ろうとする、とのことでした」

 

「そんな!デートプランは俺に任せる、って言われたからそうしただけで別に勝手に決めたわけじゃ…それに、彼女は楽しんでました。だから俺は…」

 

「ですが、小久保真里様が仰ってる以上、こちらとしても聞き入れないにはいきません。通常、契約破棄に関しては私かオーナーから日陰に伝えるのですが、小久保真里様は自分で伝えたいということでしたので私どもも慧さんには何も言わなかったのです」

 

 

…わざわざキョウコが嘘を付く理由はない、しかし、真里がそんなことを思っていたなんて、俄かには信じ難い。言葉を失い頭を抱える俺にキョウコは「違う方をご紹介いたします」とだけ告げて、再びパソコンに視線を向けた。彼女なりのフォローなのかは不明だが、今の俺にとってはいかなる慰めも鋭利な刃物だ。これ以上、ここに居てもしょうがない、虚ろな目で立ち上がった俺は、逃げるように事務所を後にするのだった。

 

 

夏空が嫌味ったらしく広がる世界に出た俺は夢遊病者のように暫くの間、街をフラフラと彷徨った。帰宅すれば瑛斗くんに「どうしたんですか?こんなに早く…」などと言われるのは必至、説明はもちろんながら適当に誤魔化すことすら、こんな心境じゃ不可能である。

 

とはいえ、「今年一番の暑さ」と、朝のワイドショーの気象予報士が言っていた通り、10分もしない内にシャツは汗に塗れ、絞れるほどになった。普段は通らない裏道を進むと有難いことに喫茶店の看板が見え、俺はオアシスを発見した遭難者のように駆けた。

 

 

すると、背後から急に肩を叩かれ、振り返った俺に今度は戦慄が襲い掛かる…

 

 

「よお!慧くんじゃん、こんなとこで会うとか奇遇だね」

「…石倉…さん」

 

 

こっちは暑くてバテそうだってのに石倉は涼し気な顔をして俺に満面の笑みを浮かべる。奇遇…なワケが無い、俺の後を尾けていたのだろう。にも関わらず、爽やかな印象さえ覚えるその余裕に俺はまず憤りを感じた。

 

 

「ちょうどよかった。君に頼みたいことがあったんだ」

「頼み?」

 

 

例の柴田アカリに契約破棄を言い渡され、「後悔させてやる」と、息巻いていたあの日から顔を合わすのは初めてであるのに、やけに馴れ馴れしい口調、やはり、真里に情報を漏らしたのはコイツじゃないか?俺がそれを確信した時、この男はとんでもない台詞を放つのだった。

 

 

「小久保真里の次の日陰は俺だから引継ぎ頼むわ。データベースより直接訊く方が早い」

「は!?」

 

 

あまりの展開の速さに俺は暑さも忘れて茫然自失状態となった。だが、それはまだ一部、彼の台詞は崖から突き落とすような更なる衝撃を俺に与えるのである…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

有沢祐輔さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。