有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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77話はこちらから

 

 

 

-二日後-

 

 

「おはよう。今朝の気分は?」

「まあまあってとこね。今日は行きたいところがあるの、車で来てくれない?」

「ああ、構わない」

 

 

小久保真里との関係も馴れ合いになった今、彼女の闇にこれ以上触れるのを拒み、保身を目的とする俺は日陰としてどうなんだろう?勿論、俺が払えるならば彼女の闇を取り除きたい、だけど、築き上げた関係性にヒビが入る気がして躊躇してしまうのだ。これじゃ結局、どこへも進めやしないってのに…

 

 

ここ暫く、零には会っていないが、隣に居ればきっと「お前は日陰を何だと思ってる?」とか言うんだろうな…踏み出さないのは目の前の問題から目を背けるのと同じ、今日こそは勇気を出すか。

 

 

「お気を付けて」

 

 

瑛斗くんに見送られて車に乗り込んだ俺は米津玄師の「orion」をBGMに蒼の下へ発進させた。ずっと電車を移動手段にしていたので小久保真里を乗せるのは初めてのことだ。勿論、昨日のうちに清掃済み、米津玄師以外にも彼女が好むアレキサンドロスやアリアナグランデのCDも積んでいる。日陰業を始めるまでは音楽を聴く自体あまり無かったのだが、今じゃ客の好みは当然ながら最新のヒットチャートやら昭和歌謡までチェックするようになった。それは別に苦痛でも面倒でも無く、客に近付くためのツールと思えば自然に受け入れられるものだ。ナギは「僕の好みに合わせてもらう、相手の好みなんて知ったこっちゃない」なんて言ってたが、アイツのキャラだからこそ成立するのだろう。

 

 

 

「2分早いわ」

「遅いよりはマシじゃない?」

 

 

真里が最初に発する言葉は決まって時間についてだ。正確に時計を合わせ、尚且つ、エレベーターホールで時間を潰したというのに…ま、毒を吐けるのは体調的な問題の無い証拠。やけに素直になるよりかはこちらとしても安心出来る。しかし、彼女が自ら「行きたいところがあるの」などと言い出すのは初めての事であり、俺はいつもより少々緊張していた。勿論、日陰の心得として、表面上は冷静さを装ってんだけどさ。それに、もしかしたらこの馴れ合いに真里も憂いを感じたのかもしれない、要は今日がチャンスってことだ。

 

 

「あら、国産車…それも随分安そうね」

「外車を買う稼ぎも借りる立場にも無いんでね、嫌だったら電車…」

「別にいいわ」

 

 

全く…国産車の何が悪いのかね。こういう側面もまた、九条マリア時代を引き摺ってると言えるだろう。だが、そんな俺の辟易は彼女が行き先を告げた瞬間に炭酸の抜けたコーラみたく鎮火した。すっかり俺の常連と化した「haru kai」を指定したのだ。

 

 

「どうしたの?行ってちょうだい」

「…だけど、真里は嫌いじゃなかった?あのブランド」

「ええ、大っ嫌い。でも、そこで働く女の日陰になった男はもっと嫌い」

 

 

完全な敵意の視線に俺は、ただただ狼狽するより他に無く、車を出す余裕すら失った。

 

先週のデートの最中、服の話題になったので何気なく[haru kai]の名前を出したところ、彼女は「二度とその名前を出さないで!」と、ブチ切れ、だから俺は今日の服装にも[haru kai]の物は避けた。だが、その理由までは把握していない、零の作成したデータベースにもそんな記載は無かったし、血相を変えてブチ切れた姿を前に理由なんか訊けやしなかった。

 

 

「…何でそんなこと知ってんだ?」

 

 

振り絞るように出した声はあまりに小さく、だけど、当然の疑問符だ。俺が誰と契約を結んでいるのか、そんな情報を真里が知り得る筈が無い、例え、ホテルで会っているのを偶然見掛けたとしても人目の付く場所にはあの変態趣味の幸太郎が張り付いているし、まさか夫婦の日陰だとは思うまい。

 

 

「どうだっていいでしょう、そんな事。私だって単に日陰ってだけなら別に気にしないわ。だけど夫の前で妻を犯すなんて…信じられない!」

 

 

…金切り声を上げる真里の隣で俺は何の言葉も出ないほどの驚愕に苛まれた。クーラーの効いた涼しい密室だというのに顔や身体のあらゆるパーツから汗が滴り落ちる。

 

 

何故、そこまで知ってるんだ?

顧客とのプレイは内密なものであり、俺は勿論、NTRという特殊…っていうか完全にど変態なプレイを上村夫妻がどこかで口を滑らすとも思えない。

 

 

ならば…どうして?

 

 

「その反応はやはり事実ということかしら?」

「…顧客の事については話せない」

 

 

真里と目を合わす勇気も無く、俺はハンドルを握り締め、俯きながら呟いた。すると、突然、左頬に真里のビンタが飛んできて、俺は「ごめん…」と、頭を下げるのが精一杯だ。何に対する「ごめん」なのか、自分でもよく分からないのだけど、混乱と狼狽と恐怖に打ちのめされた俺はひたすらその言葉を放ち続けるしかなかった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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