「さようならCP」の原一男が太平洋戦争の飢餓地獄・ニューギニア戦線で生き残り「神軍平等兵」と称して慰霊と戦争責任の追及を続けた奥崎謙三の破天荒な言動を追うドキュメンタリー映画 企画は今村昌平。

 

 

 

 

 

 

   -  ゆきゆきて神軍  - 監督 撮影 原一男 企画 今村昌平

 

          出演 奥崎謙三、奥崎シズミ 他 

 

こちらは1987年制作された 日本のドキュメンタリー映画 日本 です(122分)

 

 

 

 

 

 

  神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、たったひとりの「神軍平等兵」として神軍の旗たなびくトヨタ・マーク2に乗り、今日も日本列島を疾駆します。 そんな中、かつての所属部隊・独立工兵隊第36連隊のうち、ウェワク残留隊で隊長による部下射殺事件があったことを知り、奥崎は遺族とともに真相究明に乗りだします。 なぜ、終戦後23日もたってから、二人の兵士は処刑されねばならなかったのか 執拗ともいえる奥崎の追求のもと、生き残った元兵士達の口から戦後36年にしてはじめて、驚くべき事件の真実と戦争の実態が明かされるのでした、、。

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ昔のビデオ時代に観て、これが数度目の鑑賞になります。 何故かたまに観返したくなる貴重で強烈な1本です。奥崎謙三 という人物を追った作品で、企画 今村昌平 監督、撮影 原一男  によるドキュメンタリーの本作ですが、その内容の強さからか多数の映画賞を受賞しています。 この作品の主人公である 奥崎謙三 という人物は、1941年に軍隊へ入隊、1943年に 独立工兵第36連隊に配属され、4月に当時激戦地だったイギリス領東ニューギニアに派遣されます。 激戦によって千数百名のうち生き残ったのはわずか30数名でした。 当時から上官を殴っては食料を得ていたというアナーキーな奥崎は、 この戦闘中に右手の小指を失っています​​​​。 あちらの理由ではなかったのでした。

 

 

 

 

 

 

豪州軍の捕虜となり、1946年に復員 引揚船内で、復員者の食料を横領しようとした船長に暴行を加え腹部をハサミで刺しますが、 船長が横領事件の発覚を恐れ、明るみにはなりませんでした。 1956年 結婚し、中古車販売 バッテリー商を営んでいましたが、店舗の賃貸借をめぐる金銭トラブルから不動産業者を刺殺、傷害致死罪で懲役10年の刑に服します。​​​​​​ 1969年 皇居の一般参賀で 昭和天皇にパチンコ玉を発射し、暴行罪で懲役1年6か月の刑に服します。 1976年 自費出版の 「宇宙人の聖書!?」 宣伝用に ポルノ写真に天皇一家の顔写真をコラージュしたビラを、3か所のデパートの屋上から撒き 猥褻図画頒布 の罪で懲役1年2か月の刑に服します。 ​​​​​1977年、獄中から参院選全国区に出馬し、神軍新聞を発行。 1981年 天皇に通ずる社会の悪因として「田中角栄を殺すためために記す」を自費出版。 田中に対する殺人予備罪で書類送検されますが不起訴となります。  

 

 

 

 

 

 

ザックリでこの略歴、この 奥崎謙三 という人物に興味を持ち、その行動を 1982年から追ったものが今作になります。 この映画がメインとして捉えるのは、奥崎謙三が、かつて自らが所属した独立工兵隊第36連隊の残留隊で、隊長による 部下2名の射殺事件 があったことを知り、殺害された兵士の親族とともに、処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ねて、真相を追い求める姿をありのままに写し撮ったものです。 自らの正義の名の下に戦後35年以上(当時)経ち、平穏に暮らしている元上官の家へと押しかけ (時には入院中で、管を通し病床の人の所にまで) 誰の命令によって、誰が銃殺したのかを 遺族それぞれの妹弟を連れ、追及して行きます。 誰もが最初は口をつぐみ語りたがらないのを、ほぼ強引に聞き出していくさまは狂気すら感じます

  

 

 

 

 

 

 

この件を指揮したと思われる 中隊長、軍曹、衛生兵 (当然もう皆 老人になり、身体を壊している人物もいます) 等の普通の家の座敷でそれぞれの立場で語られる当時の状況、人によっては内容をすり替えようとする者。そんな相手に奥崎は業を煮やし、殴りかかります (様々な映画でバイオレンスシーンを観ていますが、この老人同士の ただのつかみ合い のインパクトは脳裏に焼き付きます) すぐ傍で、幼い孫が見ているその場で 近くに居た妻は 「やめて下さい、殴るのだけはやめて下さい!」 と声をあげますが、奥崎には届きません。 警察も登場する場面もありますが、奥崎は一歩も引かず、警察も傍観するだけで奥崎の勢いに圧倒されてしまいます。 

 

 

 

 

 

 

暴力もいとわない奥崎の態度に、それまで付いてきた遺族は行動を共にしなくなり、自分の妻と知人の作家を、遺族と称して同行させる事にします。 この異常性、、、

再び、家や職場を訪ねて行く奥崎、やっと少しづつ口を開いてくる兵士達の口から語られる戦場の惨状 食料も尽き、最後には 黒豚 (原住民)、白豚 (敵兵)と呼ばれる 人肉を食べていた事実も判明してきます。 終戦を知った後でありながら自分の軍に射殺された二人のうち一人は病気でもう死ぬ身であった事、もう一人は隊には反抗的で、復員した際に隊に不利な存在になり得る可能性があった為、口をふさぐ目的と、食料として利用されたのではないか? という事実を知る事となります。  以前ご紹介した映画「野火」 を思い出します。

 

 

 

 

 

 

奥崎謙三 の思想は、これに似た体験を戦場で自分が負った事によって形成されたので

しょう。そしてこのドキュメントの中で起こす行動は、残された2人の遺族の為、戦争という愚行を再び起こさない為に、真実を明らかにする必要がある。そして自分の犯した罪を認めさせる  というのが 奥崎の主張している事なのですが、勿論 様々な考えや異論はありますが、奥崎にはそんなものは通用しません 彼が 「こうだビックリマーク」 と言う事がたった一つの奥崎の真実なのです。 ドキュメンタリー映画と言っても、そこには監督の意図や、ゴールありきの製作もあります。 編集という作業がなされている限り、本当の意味でのドキュメンタリー映画というのは無い事は分かっていますが、本作はその中でも、まれなドキュメンタリー映画です。 

 

 

 

 

 

 

それは 奥崎謙三 という人物がどんな行動を起こすのか全く未知だからで、それはこの本作のエンディングがよく表しています。 そして唯一、演出的な部分がエンディングの曲です。 威勢のいい和太鼓が流れる中、奥崎謙三のストップ画面で終わります。

観終わる度に感じる脱力感と、恐怖感 ある種凄まじい反戦映画です。 映画の中で語られる戦争という事実だけでなく、それによって生み出されてしまった 奥崎謙三という怪物の存在に過去を掘り起こされる本人と、それを知らなくて良かった家族達。 

この特攻隊そのもののような奥崎謙三 という人間の凄まじさを、是非ともご覧になって頂ければと思います。 そして必ずや貴方の脳裏に焼き付く  作品となるはずです。 

 

では、また次回ですよ~! パー